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    首相発言の裏で「現実は逆行」/公的病院の労組が告発/採用減、賃下げの実態を告発

     政府の新型コロナ対策について、公的病院の労働組合が10月26日、都内で会見を開き、第6波を前にした現場の実情を語った。岸田文雄首相がコロナ専用病床の増床や看護師の処遇改善に前向きだと報じられていることについて「現実は全く逆行している」と指摘。今も続く医療費削減政策や、看護師採用の抑制を転換し、賃下げ・賃金抑制をやめるよう訴えた。

     日本医労連の佐々木悦子委員長は政府のコロナ対応について、PCR検査の徹底や、症状別の療養体制の整備、GoToキャンペーン事業の中止と感染防止体制の拡充について、「政府は真摯(しんし)に受け止めることなく、場当たり的で後手に回る対策に終始してきた印象しかない」と苦言を呈した。

     岸田首相が就任後、専用病床を増やし看護師の処遇改善を行うなどと述べたことに触れ、「現実は全く逆行している。看護師を減らし、処遇を切り下げ、公的病院の病床削減を一層進める提案がそれぞれの公的病院で出されている。『岸田首相は言っていることとやっていることが全く違う』という不満の声が渦巻いている」と語った。

     会見では、国立病院機構、厚生連、赤十字、JCHO、労災、KKRの各病院労組が出席。第6波を前に人員を増やすどころか、減らす対応が行われていると告発した。「医療崩壊」を招いたことへの反省はないのかという批判だ。

     

    ●政府に反省なし

     

     全医労の鈴木仁志書記長は「政府から2割のコロナ病床確保を指示されたが、人員増の措置は全くない。病院はアフターコロナを見据えて来年4月以降、看護師の採用を抑制し400人以上減らそうとしている」と述べ、医療費削減政策に手を付けようとしない政府の姿勢を批判した。

     過疎地域をはじめ全国105の病院がある厚生連病院の労組、全厚労の松尾晃書記長は「慢性的人員不足の中で、不採算医療である救急や小児、産科を受け持つため、医業収益は赤字」と説明。一部の病院では、将来の見通しの厳しさを理由に一時金削減を行い、離職者が多数出ていると語った。

     人件費の抑制、削減は他の病院も同様だ。「2019年度の職員数を上限とする『トータルキャップ制』が維持され、必要な人員確保が行われていない」(全JCHO病院労組)、「感染病床数を1割増やす要請がある中、現在賃下げが提案されている。ますます離職が進む」(全日赤)、「厳しい状況で増員されない。処遇改善もない。今の人員で第6波に対応できるか、職員は不安だ」(全労災)とそれぞれ語った。

     

    ●地域医療後退を危惧

     

     政府は、補助金を受けているのに稼働しない病床を「幽霊病床」と称し、批判の矛先を向けている。これについて、KKR(国家公務員共済組合連合会)病院労組の中島良子書記長は「コロナ患者に対しては最低でも通常の1・4倍の看護師が必要。4月入職の新人は即戦力にはならない。全病棟から精鋭を出して対応している。入院制限をせざるを得ない状況だ。それを『幽霊病床』と呼ぶのか」と反論した。

     全国約440病院を対象に統廃合を進める国の計画に対し、全日赤の五十嵐真理子委員長は「名指しされた日赤病院は24ある。そのほとんどが発熱外来や、コロナ患者を受け入れている」と述べ、地域医療の後退を危惧した。

     

    〈写真〉新型コロナ感染拡大第6波を前にした公的病院の現状について、日本医労連と当該の労働組合が報告した(10月26日、都内)