国連は9月23日~25日、「国連食料システムサミット」をオンラインで開催した。食料の生産や流通、消費などの一連の「食料システム」の変革を通じて、新型コロナウイルス感染症の影響から脱し、2030年までに、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成することを目的としたものだ。
途上国での食料不足と飢餓、気候危機が農業にもたらす影響、移民労働者によって支えられている農業生産など、世界の食料をめぐる課題は深刻であり、食料サミットはその対応をめざした。
●持続可能な農業へ
世界の食料生産・供給のシステムを改善しなければ持続可能ではないとの指摘は、何年も前からなされてきた。
小規模家族農家による農業や、環境に配慮した農業であるアグロエコロジーへとシフトすることを、国連はすでに2010年の総会で訴えている。そこには、途上国の小農民や先住民族などの粘り強い運動が反映されている。
新型コロナウイルスのパンデミック下で、一部の国では食料輸出規制や移民労働者の入国制限を行った。また、米国では食肉処理工場で大規模クラスターが生じ、食料のサプライチェーンが一時的に停滞・混乱した。
こうした事態を受け、多くの国では「食のグローバル化」の不安定さが理解され、できるだけ自国での生産を高めたり、気候危機への対応としての有機農業を推進したりという取り組みが始まっている。
●利潤求め参入する企業
一方、同時に進むのが遺伝子組み換え企業や穀物メジャーの躍進、GAFAを代表とする大手IT企業や金融資本などによる食料システムへの参入だ。
例えば近年、ゲノム編集のトマトが日本でも表示なしで流通し始めたが、これらを含むいわゆる「バイオ技術」はますます推進されている。気象情報や農作物の生育状況をデータ化してAIが管理したり、省力化のためのロボット技術が導入されたりするなど、「スマート農業」「デジタル農業」も脚光を浴びている。
こうした技術は、巨大IT企業にとっては「利潤を生み出す種」である一方、貧困と隣り合わせで生き、小規模で伝統的な農業を営む世界の農民にとっては、先進国企業による「技術の強要」になりかねない。
●民衆サミットで対抗
国連食料システムサミットには、ビル・ゲイツをはじめ世界経済フォーラム、CropLife(遺伝子組み換え企業と住友化学からなるロビー団体)などが当初から参画している。
これに対して、世界の農民・漁民団体、先住民族組織、労働組合、女性らは「多国籍資本による国連の乗っ取り」だと猛反発。国連サミットに対抗して「グローバル・ピープルズ・フードサミット(世界の民衆による食料サミット)」をオンラインで企画した。
ここでは、世界各国の農民などからの運動報告や実践交流がなされ、最終日には声明文が採択された。もちろん先進国の市民社会団体も参加・協力した。
主な内容は、企業による技術導入目的の農業ではなく、農民の権利が優先されるべきであること、小規模農家の支援を公共政策の中心に据えること、市民の食料主権を前進させること――。
声明文は「食料生産に関しては、権利に基づいた、包括的でコミュニティー主導の解決策が進められなければなりません。安全で、十分で、栄養があり、多様で、文化的に適切な食料に対する人々の権利は、特に現在進行中のパンデミックのような災害時には、常に満たされなければなりません」と訴えている。
●「食の主権」確立を
近年の日本の食料自給率は37%(カロリーベース)と低く、耕作面積は年々減少して400万ヘクタールを切った。今年は米価が下がり、農家は「米を作っても飯が食えない」状態だ。担い手不足も深刻な中で、有機農業面積を容易に拡大することは難しく、また単なる技術導入では解決しないことは明らか。
農業政策のより根本的な変革を行い、世界の農民たちと呼応しながら、私たちの「食の主権」を確立していくことがいま求められている。(アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子)
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