来年5月で日本復帰から満50年となるのを前に、「沖縄振興」の在り方を巡る議論が最終段階に入っている。自民党の沖縄振興調査会(会長・小渕優子衆院議員)が、玉城デニー沖縄県政をかやの外に置くかのごとき対応をしていることを前回紹介した。その後の動きをお伝えしたい。
自民党の調査会は7月28日、提言案をまとめた。
「沖縄振興は半世紀がたち、これまで以上に国民の理解と共感が必要」とした上で、「国境を担う沖縄は地政学的に重要。総合的な安全保障の実現を通じてアジア・太平洋地域の安定に資する」とした。沖縄メディアは〈沖縄振興で「安全保障」/自民調査会、提言案に明記〉〈「安保と引き換え」鮮明〉(琉球新報7月29日付)などと報じた。
8月3日付で公表された首相に提出された提言でも「(沖縄県は)地政学的に重要な場所」「総合的な安全保障としてアジア太平洋地域の安定に資すると考える」「特に、近年、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、沖縄の離島が果たす役割は従来以上に重要になっている」とした。安全保障に資するのでなければ、振興策は講じないと言うのだろうか。
●沖縄振興は国の責務
本来、「国土の均衡ある発展」が政治の大命題であり、地域に暮らす全ての人の人権が尊重されなければならない。人権の観点からすると、県単位の振興を安全保障と引き換えにするというのは、特定の地域や県民への差別ではないか。
そもそも沖縄振興とは、国体護持のための捨て石作戦として実施された沖縄戦の被害と、その後の米軍統治で生じた社会経済面での大幅な立ち遅れや格差を、「償いの心」で是正するためのものであった。半世紀を経て社会インフラはほぼ整備できたが、離島県であることのハンディキャップを抱え、基地の過重負担は続いており、全国平均の7割にとどまる所得の低さ、貧困率の高さは依然として深刻だ。ソフト面に重点を置いた振興策が引き続き必要だということに、県内に異論はほとんどない。
8月23日には首相の諮問機関である沖縄振興審議会が新たな沖縄振興の方向性をまとめ、最終報告を首相に意見具申した。そこでも、従来明記されていた「国の責務」の文言が消えた。
沖縄振興について、基地受け入れの見返りをにおわす発言が政府関係者から公然と出るようになり、自民党、政府の姿勢は明らかに変わった。沖縄県政、県民は、「ヤマト世」の次の半世紀に向けて新たな覚悟が必要になっている。
●沖縄振興予算への誤解
ここで「沖縄振興予算」への誤解について、触れておきたい。沖縄振興予算は近年「3千億円確保」が知事の公約になってきた。この予算は、他の都道府県の「国庫支出金」とほぼ同義であり、通常予算に上乗せされたものではない。沖縄県は、沖縄振興特別措置法により各省庁の予算が一括方式になっており、それをまとめて「沖縄振興予算」と呼んでいるのである。
国庫支出金と地方交付税交付金を合わせた額を人口1人当たりにすると、沖縄は島根、鳥取、高知、青森などより低い。公共事業の高率での国庫補助や酒税優遇措置などの特例はあるが、予算総額で沖縄が特別扱いされているのは誤解であると強調しておきたい。(ジャーナリスト・米倉外昭)
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