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    二つの組合つぶしに司法判断/第一交通関連会社と大阪市

     労働組合つぶしで知られる使用者が7月末、相次いで司法に断罪された。一つが、企業買収で全国に事業を拡大し、組合つぶしを行ってきた第一交通産業グループの子会社で、もう一つが組合事務所退去や思想調査など執拗(しつよう)な公務労組つぶしを行ってきた大阪市だ。公共交通機関と自治体が不当労働行為を続ける状態が今も改善されていない。関係する労組は、「コロナ対応で、最前線で働く労働者の声を聞き、労使関係を正常化してほしい」と訴えている。

     

    「退職扱い無効」の判決確定/最高裁/労働委員会改革を労組訴え

     各地で労組つぶしを行ってきたタクシー大手、第一交通産業グループの鯱第一交通(名古屋市)に対し、労組書記長に対する「退職扱い」は不当労働行為であり「無効」とした名古屋高裁判決が確定した。最高裁が7月27日、会社の上告を棄却した。労組側は並行して行われている中央労働委員会で争議解決を目指す。

     愛労連は「第一交通グループの労働者に希望を与える」と歓迎するとともに、救済申し立てを棄却した愛知県労働委員会の資質を問題視。労働委員会改革を訴えている。

     

    ●高裁で逆転勝訴

     

     争議は、同社が2016年、第一交通労組の委員長と書記長に対し、病気休職が終了したなどとして、解雇、退職扱いとした。

     愛労連などによると、同社では管理職やそれに同調する社員らが、組合員に対し罵声を長時間浴びせるなどの嫌がらせ行為が続いていた。名古屋高裁は今年2月、会社側が脱退勧奨を行ってきたこと、組合役員らの雇用を打ち切ってきた経過を踏まえ、組合員を会社から排除するために、休職中の書記長を「退職扱い」にしたことは不当労働行為であり無効と判断した。一審の名古屋地裁は原告である書記長らの請求を退けていた。

     併行して審理を行っていた中労委では2月に結審したが、名古屋高裁の原告側逆転勝訴があり、一転して審理を再開。10月に予定されている未払い残業代請求訴訟の判決を見て、秋にも和解協議に入るとみられる。

     愛労連は7月30日、最高裁決定について「同様の不当労働行為に苦しむ全国の第一交通グループで働く労働者に大きな希望を与える」と歓迎する声明を発表した。同社に対しては「判決を重く受け止め、不当労働行為を直ちにやめ、労働法の順守と正常な労使関係の構築を求める」と訴えている。

     

    ●愛労委は救済機関か

     

     さらに声明が今回の争議で問題視するのは、労組の申し立てを棄却した愛知県労委の資質だ。名古屋高裁が不当労働行為を認定し、最高裁が追認した一方で、本来、労組の最も身近な救済機関であるべき愛労委が真逆の判断をしていたことになる。

     愛労連の竹内創事務局長は「愛知県内の労組は、愛労委に申し立てても救済を認めてもらえないので、最初から裁判に訴える傾向がある。以前から、公益委員に労働法学者が1人もおらず、労働者委員は連合独占。労働委員会の改革が必要だ」と話す。

     9月には労働委員会のあり方を問う集会を県内で開催する。

     

    救済命令を支持/組合事務所供与で大阪地裁/労組「正常な労使関係を」

     組合事務所の供与について大阪市役所労働組合が大阪市に団体交渉を求めている問題で、大阪地裁は7月29日、救済を命じていた大阪府労働委員会の判断を支持し、大阪市の取り消し請求を棄却した。労組は同日、「市は判決の趣旨を真摯(しんし)に受け止め、組合の要請に対して団体交渉を開催し、労使関係を正常な関係に修復するよう求める」との声明を発表した。

     組合事務所の退去をめぐる問題は、橋下徹氏が2011年に市長就任当時、「公務員組合をのさばらせておくとギリシャのようになる」などとして市職員労組を敵視するキャンペーンを展開して行った、一連の不当労働行為の一つ。中央労働委員会は15年、不当労働行為と認定。大阪市は再発防止の誓約に追い込まれた。

     他方、事務所使用の不許可処分をめぐる裁判では、最高裁は17年2月、労組の上告を棄却。便宜供与を禁じる市条例を理由に、労組に立ち退きを命じた二審の判断が確定していた。

     今回の判決は、17年9月に市役所労組が大阪府労委に救済を申し立てていた案件。市は、組合事務所の供与に関する要求を団交応諾義務のない「管理運営事項」と主張したが、府労委は「団体的労使関係の運営に関する事項であることは明らか」とし、団交拒否は「組合の存在を軽視したものであり、支配介入」と判断していた。

     大阪地裁もこの判断を支持した。最高裁の判断とは別に、組合事務所をめぐる問題は、団体交渉事項であり、市は応じなければならないという判断だ。 

     大阪市役所労組の井脇和枝委員長は「市は裁判を長引かせるのではなく、労働委員会の命令、判決を真摯に受け止め、事務所問題を労使できちんと話し合って決めていくべき。職員は新型コロナ感染拡大に対し、住民のために第一線で働いている。その職員の声に市は聴く耳を持たず、なしのつぶてにしたままでいいのでしょうか」と話す。

     大阪市に対し、控訴しないよう、大阪自治労連や大阪労連傘下の労組が要請を強めている。