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    インタビュー/労組の交渉力強化支援へ/EU最低賃金指令案Ⅱ/田端博邦東京大学社会科学研究所名誉教授に聞く

     ――労働協約を結べなくなったことも要因だと

     サッチャー改革、グローバリゼーションが進んだ1990年代以降、労組の組織率は全般的に低下している。組合のない職場にも労働協約が適用される「拡張適用制度」があるので、賃金・労働条件への影響は緩和されているが、国によってはかなりミゼラブル(悲惨)な状態になっている。

     特に、産業別の労使が労働協約を結び、企業の枠を超えて産業全体の賃金を決める方式(産別協約)が減り、個別企業ごとに協約を結び、賃金を決める割合が増えた。使用者による一方的な決定もかなりの割合を占めるようになった。これを逆転し、産業別や全国全産業の労働協約を強める方向に逆転させようというのが、最賃指令案の団体交渉強化方針だ。

     最賃指令というタイトルだが、産業別、全国全産業労使の労働協約による最賃の設定、引き上げを目指している。それが不十分な国については、適切な水準の法定最低賃金制度を整備するよう求めている。

     使用者団体の長年の狙いは、団体交渉を企業別にまで下すことだった。企業別の交渉・協約は、日本がそうだが、使用者側の主導権を強め、労働組合の力を弱める。指令案はそれを立て直す意味を持つ。

     実際、EUを離脱した英国は90年代末には産別協約が激減し、ドイツでも産別協約が骨抜きになっていった。英国は98年に、ドイツは14年に法定の最賃制度を整備した。協約で賃金を底支えできなくなった国が、法定の最賃制度をつくらざるをえなくなった典型例だといえる。

     拡張適用制度の導入や、交渉能力をつけるための援助など、多様な施策を講じて労組の交渉力を強化するよう各国政府に求めているのは非常に重要な点だ。

     

    ●労使自治が隠れ蓑に

     

     ポイントは労使自治の問題。「支援は介入だ」という議論が既に出ている。

     労働法の歴史を見ると、労働運動が盛り上がる中で協約が結ばれるようになるが、労使関係は発展しなかった。そのため、さまざまな法的支援が行われてきた。欧州では規範的効力や拡張適用制度がある。米国は団交に応じないと不当労働行為になる制度が1935年に整備された。

     労使の力関係にはアンバランスがあるので、ある程度労使関係を順調に成立させる法的支援が必要だということ。団体交渉への支援は介入ではない。

     日本でいえば、戦後直後に労働組合法が制定され、労組が瞬く間に急増した。欧州の規範的効力や拡張適用、米国の不当労働行為制度の両方を持っているのは特筆すべき点だろう。

     ――法定最賃に関する規制をどうみていますか?

     一般労働者の賃金の平均値の50%、中央値の60%という「カイツ指標」が前文に明記されている。欧州委員会はこの水準を目指すべき目標として想定していると思われる。

     中央値の6割を超えている国は欧州でもわずかだ。労働協約で最賃を定めているデンマーク、イタリアの70%が高い。フランスも6割を超えている。ブルガリアが6割を超えているが、これは全体の賃金水準がかなり低いのだろう。こういう国はカイツ指標だけでなく、生活に必要な生計費を積算するマーケットバスケット方式も考えるべきということになる。

     東欧は最賃の水準が低く、労組の力が非常に弱い国が多い。指令案と現実のギャップはかなりある。先進国は90年頃から生産性は順調に上昇しているが、賃金の伸び率が非常に低い。賃金と生産性とのギャップを改善するためにも、段階的な措置をとりつつ、大胆な政策を行う必要があるだろう。(つづく)