5月、菅政権肝入りのデジタル関連法が成立した。合計63本に及ぶ巨大な「束ね法案」で、審議は衆参でわずか27時間だった。関連法のうち、自治体に直接影響するのは「地方公共団体情報システム標準化法」(標準化法)だ。
●後退する地方自治
自治体は国が定めた基本事務に加え、独自の行政事務(サービス)を行っている。いずれも地方自治の理念に基づき、自治体の規模・状況や住民のニーズに即したきめ細かな措置である。自治体は行政サービスを提供するため、住民に関するあらゆる情報を管理している。個人情報は各自治体が独自のシステムとサーバーで、個人情報保護条例に従い適切に管理されている。いわば自治体による自主・自律的な管理だ。
ところが標準化法では、17の行政事務を共通の基盤で行うための「ガバメント・クラウド」を国が構築し、全自治体がこれを使用しなければならなくなる。国は必要なアプリを企業に開発させ、ガバメント・クラウド上で運用させる。
問題点は何か。まず、国の一元的なシステム使用が義務付けられることで、これまで自治体が独自で提供してきた行政サービスが継続できなくなる懸念だ。
例えば、国によって「標準化」されたシステムに予め設計されていない措置を継続するためには、自治体が費用を負担して追加的にカスタマイズしなければならない。問題なく運用しているシステムを捨て、政府指定の方法に移行しなければならないこと自体、自治体には相当の負担となる。
政府は移行目標を2025年までとするが、コロナワクチン接種で手一杯の自治体にとってまったく現実的ではない。憲法で保障されている地方自治が後退する危険も極めて高い。
●スーパーシティとの関連
1年前、国家戦略特区の枠組みの中で「スーパーシティ」構想を実現する法改正もなされた。AIなどデジタル技術を駆使した「未来都市」を目指すこの構想は、今年4月まで全国の自治体から公募がなされ、31の自治体が応募した。各自治体の計画書を見ると、「遠隔医療」「遠隔教育」「ドローンやロボット技術によるスマート農業」「マイナンバーを行政・企業サービスとより密接に連携」などが描かれている。
デジタル関連法とスーパーシティは直接には結びついておらず、スーパーシティは応募した自治体のうち五つほどが選ばれるため全ての自治体に関係するわけではない。だが、施策の方向性は一致している。「国による自治体へのトップダウンという手法」「自治体や公共サービスの市場化」だ。スーパーシティ構想にも国内外の大手IT企業やコンサル会社がすさまじい勢いで参入し、膨大な利益を得ようとしている。
●私たちにできることは
「コロナ給付金の遅れはデジタル化が十分でないから」「ニューノーマル時代にはデジタル化が不可欠」「人口減少する日本では民間のIT技術・資金によって公共サービスを提供するしかない」などの言説がまことしやかに語られる。自治体行政における狭義のIT化の必要性は否定しないが、問題の本質はデジタル化では解決しない。
例えばコロナ対策で必要なのは、科学的根拠に基づく政策と医療体制の拡充・医療資源の分配であり、「人口減少」は、男女平等や子育て支援、産業政策全体を改善しなければ解決しない。農業や地域経済の疲弊は、貿易・食料政策・農政の転換が必要だ。
こうした問題のすり替えを私たちは厳しく批判していかなければならない。
(アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子)
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