建設アスベスト訴訟で、最高裁は5月17日、初の判決を示し、国と建材メーカーの責任を認めた。原告らは「基本的には勝利判決」と評価している。判決は、労働者ではない「一人親方」(個人事業主も含む)に対しても国家賠償法、労働安全衛生法上の補償対象とした。一方で、屋根工など屋外作業者に対しては大阪高裁(大阪1陣、京都1陣)の判決を覆し、国と建材メーカーの責任を否定した。原告らは「明らかな誤判だ」と強く抗議している。(表)
建設現場で建材に含まれたアスベスト(石綿)を吸い込み、肺がんや中皮腫など重篤な病気になったとして国と建材メーカーを相手に争う、建設アスベスト訴訟。最初の提訴から13年が経ち、原告は約1200人に上る。最高裁の判決は初。先行する4訴訟(神奈川1陣、東京1陣、京都1陣、大阪1陣)について判決を言い渡し、統一見解を示した。
判決は国に対して、危険性についての適切な警告表示、現場掲示、防じんマスクの着用の義務付けを怠った(規制権限不行使)とした。これにより石綿規制が強化された1975年10月1日から、含有量1%を超える石綿建材製造を禁止した政令改正が施行される前日の2004年9月30日までを補償期間と認定した。
建材メーカーに対しては、配管工や電工など建材取り付け後に加工作業する職種(従事者)も含めて、警告表示義務を怠ったとして、責任を認めた。建材メーカーに連帯責任を負わせる、民法の「共同不法行為」を認定。不法行為の範囲は、石綿含有建材の製造期間を調べた国のデータベースや、建材ごとの市場占有率によって推認が可能とした。
屋外作業者については、風などで換気され、粉じんの濃度が薄められることがうかがわれるとし、二審判決(大阪高裁)を覆して責任を否定した。
今回の判決で京都1陣訴訟が確定。残る3件の訴訟については、国とメーカーの責任を否定した判断の見直しと、賠償額の算定のため、東京、大阪の両高裁に差し戻した。
判決を受け、国は1人あたり最大1300万円の和解金を支払う方針。裁判を起こさなくても、被害者が慰謝料を受けられる基金制度の創設に向け、5月18日には原告らと「基本合意書」を交した。
●〈メモ〉画期的な判決内容
労働基準法や労働安全衛生法の保護範囲から外れる一人親方や個人事業主が、国の責任対象として認定されたのは画期的だ。判決は「安衛法57条の趣旨は労働者に該当するか否かによって変わるものではない」との判断を示し、労働者でなくても補償すべきと踏み込んだ。
もう一つ画期的なのは、建材メーカーの責任を「共同不法行為」として認定したこと。裁判では個別(建材メーカーごと)の責任を立証するのが一般的だが、病気の潜伏期間が数十年と長く、建設現場を渡り働く建設従事者が「いつ、どこで、どの建材に含まれているアスベストによって病気になったか」を立証するのは事実上、不可能だ。原告には「大きな壁」だったが、認められた意義は大きい。検討されている基金制度の創設で、建材メーカーに必要な責任を果たさせることが求められる。
国に対して、石綿含有建材の製造・使用禁止が遅れた責任を認めた大阪高裁判決(大阪1陣)が確定したことも大きな意味がある。大阪訴訟の村松昭夫弁護団長は「最高裁では言及がなかった。大阪高裁の判決が生きたということ。今後の被害者救済はもちろん、災害時の復興作業や周辺住民を含む石綿被害にも救済の道を広げる可能性がある」と話している。
コメントをお書きください