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    〈グローバル化の陰で〉(20)・コロナワクチン 上/米政権が知財権停止を支持/巨大製薬企業の抵抗に負けず

     米国バイデン政権のキャサリン・タイ通商代表は5月5日、新型コロナウイルス感染症のワクチンなどに関して、知的財産権の免除を支持する声明を発表した。

     この決定は、欧米の巨大製薬企業が握ってきたワクチンをはじめとする新規予防・医療技術の独占権を緩和することで、製法・ノウハウなどの共有を促進。ワクチンなどの製造能力を持つ世界各地の企業が増産できるようにし、世界の公衆衛生上のニーズを満たす形で供給して、コロナを克服することを目的としている。

     この提案は、昨年10月、世界貿易機関(WTO)の知的財産権理事会に対し、インドと南アフリカが共同で出したものだ。その後、多くの途上国が共同提案国に加わった。提案に賛成する国は現時点で100カ国以上となる。

     

    ●知財権ルールは米国発

     

     一方、米国や欧州連合(EU)、英国、日本など先進国はこの提案に強く反対してきた。製薬企業が抱える特許は膨大な利益を生み出し、この25年間、先進国はWTOの中で特許を含む知的財産権の保護強化を目指してきたからだ。

     そもそも、1995年に設立されたWTOで、知的財産権の国際的なルールづくりをリードしてきたのは米国だった。レーガン政権が1985年に出した「ヤング報告」以来、民主党政権を含めて知的財産権保護の飛躍的な強化と世界化にまい進してきた。巨大な利益産業となった製薬企業が、特許を手放すわけはない。昨年11月にバイデン政権の勝利が決まり、国際的な特許停止の運動が広がる中、危機感を抱いた製薬業界は100人以上のロビイストを米国議会や官僚に送り、同政権に「特許停止に賛成しないよう」必死に働きかけてきた。

     

    ●現行制度は行き詰まり

     

     今やコロナ・パンデミックという未曽有の危機に際し、ワクチンの製造が圧倒的に不足しているのは明らかだ。ファイザーやアストラゼネカなどの企業はワクチン開発のため膨大な公的資金を受け取っており、完成したワクチンを高価格で各国政府に販売している。しかも契約には透明性がなく、どの国にどれだけのワクチンを販売するかを決定する権限は基本的にすべて製薬企業の側が持つ。

     こうした既存の知財システムそのものが、現在の公衆衛生上のニーズに全く対応できていない。そのことをインドや南アは根本的な問題として提起したのだ。

    (アジア太平洋資料センター代表理事 内田聖子)