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    〈グローバル化の陰で〉(20)・コロナワクチン 下/「共有と協力」の枠組みづくりへ/新型コロナ含む危機への対処

     米国市民社会はバイデン政権が誕生した1月以降、この問題を政権に激しく突きつけ、途上国の提案に賛成するよう運動を展開してきた。医薬品アクセスに関わる団体やHIV・エイズ患者団体、医療関係、貿易問題に関わるNGO、労働組合、そして航空業界など実に多様な陣形が組まれた。

     さらに民主党内においては、バーニー・サンダースやナンシー・ペロシなどの有力議員100人近くが、バイデン大統領に特許停止に賛成するよう働きかけた。その背景には、トランプ大統領時代から市民社会と民主党の左派議員らが準備してきた気候危機対策や格差是正、富裕層への課税、労働者の権利向上などさまざまな政策形成のプロセスと信頼関係がある。

     何よりも米国自身が、世界最大のコロナ感染者・死者を出した国となり、自国でマスクや人工呼吸器など不可欠な物資が製造できないという現実を突きつけられた経験も大きい。多くの人々が、ワクチンを世界に行き渡らせようという運動を、「自分ごと」として取り組んだのだ。

     

    ●日本も問われている

     

     今回の米国の方針転換はまさに歴史的なものである。

     しかし道のりはまだ長い。WTOでは全加盟国が同意しなければ特許停止の具体的な交渉には入れないため、米国以外のEUや日本などの態度が鍵となる。

     製薬企業からの反撃も容易に予想できる。日本はこのままかたくなに反対をし続けるのか、あるいは米国がとったような方向へかじを切るのかが問われる。危機の時代に際して、知的財産権を核とする「独占と競争のパラダイム」から、連鎖する危機を団結して乗り越えるための「共有と協力のパラダイム」へ、バイデン政権が転換した道に日本も踏み出すべきである。

    (アジア太平洋資料センター代表理事 内田聖子)