「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    沖縄レポート/玉城県政の行方に漂う暗雲/遺骨土砂やうるま市長選問題

     沖縄戦の戦没者の遺骨を含む沖縄本島南部の土砂を「辺野古新基地の埋め立てに使うな」といううねりは全国ニュースになった。そんな中で注目された玉城デニー沖縄県知事の判断はどうだったのか。そして、うるま市市長選の結果をどうみるか。「オール沖縄」と玉城デニー県政の行方に暗雲が漂うのを感じざるを得ない。

     

    ●県議会は後押ししたが

     

     沖縄県議会は紆余(うよ)曲折の末、4月15日、戦没者の遺骨などが混入した土砂を、埋め立てに使用しないことを政府に求める意見書を全会一致で可決した。自民党などの賛成も得るため、土砂採取場所を本島南部に限定せず、使用場所に「辺野古」という文言を使わなかった。

     県議会全会一致という後押しを受けた玉城知事だったが、16日の自然公園法に基づく知事の措置命令の判断は、沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松さんらが求めていた採掘中止命令には至らず、「風景を保護するために必要な措置を執る」よう命じるものにとどまった。

     知事会見を傍聴した具志堅さんは「遺族の声が反映されていない。残念を通り越して憤りを感じている」。その後も国会内で政府に土砂使用断念を求める集会を開くなど、行動を続けている。

     うるま市長選挙(25日)は、玉城知事率いる「オール沖縄」勢力が後押しした沖縄国際大学名誉教授の照屋寛之氏(68)が、市議から出た中村正人氏(56)に1862票の僅差で敗れた。争点のない選挙となったのは、保守の強い土地柄で照屋陣営が基地問題などに触れず、政党色を控えた戦いに徹したからだ。結果は、投票率が下がる中で基礎票は固めたものの、保守票の切り崩しは不発に終わった。

     

    ●知事に物足りなさも

     

     来年秋の知事選に向けて重要選挙が続く。しかしオール沖縄は、共産党が存在感を増す一方で、社民党が立民合流組と分裂し、内紛があったおきなわ社会大衆党も先細りが顕著だ。立憲民主、国民民主も拡大を図るが、パイの奪い合いだ。翁長雄志前知事の流れをくむ保守系勢力も、何度かの分裂を経て勢力を弱めている。

     支持母体の不安に加え、玉城知事自身のリーダーシップにも物足りなさを感じる声を聞くことが多くなった。

     土砂問題での中止命令を回避したのは、県が3億円以上の損害賠償を求められる恐れがあったからという。行政的には中止命令が困難なのは確かだ。ならば、知事として政治的アクションを起こすことはできないのか。政府への働き掛けや県独自の条例など、やれることはあるはずだ。翁長前知事は、那覇市長時代の2013年1月、オスプレイの沖縄配備に反対して沖縄の全市町村長の署名をそろえて、政府に突きつけるとともに、東京・銀座でデモ行進をした。

     

    ●日本揺るがす気概を

     

     玉城知事は首里城再建問題でも、沖縄が主体となっての再建を求める声に応えていない。首里城地下の沖縄守備軍第32軍司令部壕の保存についても煮え切らない。新型コロナ対策でも、離島県として水際対策の徹底を求める声が当初から経済界などで強かったが、有効な手が打てないまま現在に至っている。

     さらに、米中対立の激化に伴い、国内で沖縄の軍事化を当然視する空気も強まっている。そんな時だからこそ、沖縄県知事には、県民を奮い立たせ、日本を揺るがし、さらに世界にも打って出る気概と発信力、行動力が求められている。知事だけの問題ではないことはもちろんだが。(ジャーナリスト 米倉外昭)