自民党内に最低賃金の全国一元化を目指す議員連盟ができて2年が経過した。3月に開かれた、政府の経済財政諮問会議では最賃引き上げと地域間格差の是正が取り上げられるなど、議連の示す方向に事態が動いているようにもみえる。議連事務局長の務台俊介衆院議員に聞いた。
〇
――議連結成から2年。取り組みの手ごたえは?
務台 最賃は、支持層との関係を考えると取り組みにくい課題だ。議論を始めた時、商工団体から抗議を受け、今もその状況は続いている。しかし、デフレから脱却するにはマクロの総需要を高めなければならず、経済政策として避けて通れない命題だ。
日本の賃金は国際的にみても低い。需要の創出、東京一極集中の是正が必要と議論していたところに、コロナのまん延が加わった。
英国は昨年、最賃を6・2%引き上げた。コロナで12万人以上が亡くなり、激しい状態下でのこと。エッセンシャルワーカー(社会生活維持に必要な働き手)の多くが最賃水準で働いており、彼らに感謝を示す意味があったという。そういう国民的コンセンサスをつくり、雇用に悪影響を及ぼさないという学問的分析を基に引き上げを行ったのは大変興味深い。
一方、日本はわずか0・1%。中央最賃審議会の答申段階では〃ゼロ〃だった。他の先進国が1~2%だったのと比べても低さが際立つ。約60年前にできた仕組みが今、制度疲労を起こしている。
●菅首相も同意
昨年末に最賃引き上げの提言を菅義偉総理に提出した際、総理も「これはやらないといかん」と述べていた。経済財政諮問会議も3月22日に引き上げと均衡化を議論した。
今後本格化する骨太方針の議論に併せ、近く議連として新たに提言を出す。その肝は、最賃の低い地方は引き上げをスピードアップし、高い地方は緩やかにする、そして将来一元化する――そういう方向性を、中小企業支援を前提に進めるべきという内容だ。
今年は総選挙もある。雇用者所得を増やし需要を創出すること、東京と地方の格差を是正すること。この二つの視点を訴えていきたい。
●大きな転換点に
――諮問会議では、重要閣僚が引き上げの方策について発言していました。
「やるぞ」という政府の意思が表れていたのではないか。今後の展開の大きな転換点になるだろう。
諮問会議では内閣府の調査結果が話し合われた。その調査は、都会は企業間の競争が激しいため最賃引き上げ分を価格に転嫁しにくいが、地方は競争が緩やかなので転嫁しやすい、と指摘している。そのため、最賃が低い地方ほど、最賃引き上げによる、雇用へのプラスの効果が見込まれると分析している。
「最賃引き上げが雇用喪失に直結する」というのは誤解だったという理屈だ。これからは最賃引き上げを堂々と言えるようになる。
――昨年は中小企業団体が「凍結」を訴え、全体の流れになりました。諮問会議の議論は機先を制する意味もあったのでしょうか?
そういう意図もあるのかもしれない。経済団体と政権は認識を異にしているよ、と。
経済団体は自分の商売を超えた効果を考えないといけない。SDGs(持続可能な開発目標)など国際社会の理念を踏まえ、社会的資本主義、公益資本主義をめざすべきだ。
それは勤労者との関係でも同じ。労働者を安く使ってもうけるビジネスモデルはだめだという理念を、皆で共有することが大切だ。
ただ、背に腹は代えられないので、中小企業には公的支援を行う。財源確保として、例えば約480兆円に上る内部留保に0・5%を課金する。それにより毎年約2兆円の財源を捻出して支援することを提案している。
●鍵は骨太方針と総選挙
――一元化への道筋はどのように?
一元化には法改正が必要になる。税制や中小企業対策など関連する政策との調整も求められる。複雑な制度の改正は政府にしかできない。議員立法でできるのは、政府に対策を促す推進法の制定だ。いずれにせよ政府の責任で行わなければならない。
――党内の雰囲気は?
(議連が)だんだん警戒され始めている。どういう動きなのか気にされ始めている。議連だけだと、何か言っているなという感じだけど、官邸の動きと連動していると感じているからだろう。
――4月の会合には細田派の細田博之会長や岩屋毅元防衛相が参加しました。
細田先生は元々議連のメンバーだ。二階(俊博幹事長)先生や加藤勝信官房長官も入っている。衛藤征士郎会長が声を掛けて、参加していただいている。
――党内でつぶされないための「お守り」だと。
大きな方向ではやらなければならない、との認識を持っていただいていると理解している。
――勘所は中小企業支援ということですか?
そうだ。財源をどうするかということになる。
――労働行政に影響力を持つ「厚労族」議員の反応はどうですか?
難しい。経済政策として最賃を捉えるかどうかの違いだろう。諮問会議では最賃引き上げが必要な理由に、若者を地方に誘う地方創生の観点も加わった。骨太方針と総選挙公約に、被雇用者の所得増による需要創出、東京と地方の格差是正を書き込めるかが勝負所だ。
〈写真〉2019年6月撮影
コメントをお書きください