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    〈コロナ禍と老舗旅館〉上/以前から権利侵害が横行/住み込み調理員が組合に加入

     新型コロナウイルス感染の広がりで深刻な影響を受ける宿泊業。もともと住み込みで働く人への権利侵害が少なくなかったが、コロナ禍を理由に、労働者に犠牲を強いる経営がエスカレートしているといわれる。そんな中、労働組合に加入して要求を前進させた人たちがいる。東京の老舗旅館で調理員として働いていた森谷洋子さん(仮名、60代)に話を聞いた。

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     森谷さんは創業70年以上の老舗旅館(東京都文京区)で2年前から調理員として働いていた。住み込みで従業員や宿泊客の食事を担当。就業時間は朝6時から10時、15時から19時まで。時間外に食材の買い出しなどに行かざるを得ず、十分な休憩はとれなかった。日給月給のシフト制で、残業代は満足に支払われていなかった。手取りは月約20万円で地域別最低賃金額に張り付くレベルだ。

     宿泊客は、地方からの修学旅行生や海外の観光客が多く、新型コロナの感染拡大前は月4日休めればいい方だった。昨年4月の緊急事態宣言で一気に客足が遠のいた。シフト制のため収入は激減。「住み込みなので家賃や食事代はかからなかったが、貯金を切り崩して急場をしのいだ」と森谷さんは話す。

     

    ●組合を公表し闘う

     

     昨年5月末、経営者から「経費削減のために(従業員の)社会保険加入を取り止める。それぞれ市町村の国民健康保険、国民年金に加入してほしい」と言われた。森谷さんは納得できず、以前からつながりのあったコミュニティユニオン東京(CU東京、地域ユニオン)文京支部に相談。経営者には「社保などの脱退はおかしい。私は拒否します」と伝えた。

     戸惑う同僚にも事情を話し、3人が組合に加入。4人は6月初め、団体交渉を申し入れ、要求書を手渡した。森谷さんは、その時の心境をこう話す。

     「住み込みの部屋には合い鍵があり私がいない時に無断で入り私物調査をされたり、私宛ての手紙が開封されて手渡されたりすることもあった。恣意的な理由でシフト変更されるなど、今までも人間として扱われてこなかった。そこにコロナ禍が重なった。我慢してきたが、もう耐えられない。労働組合員であることを公表して闘うしかないと思った」