「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    シフト制の問題点(下)/法律による規制は可能か?/EU指令なども参考に

     休業しても休業手当が支払われないことが多く、不安定な働き方の「シフト制」。改善する方法はないのだろうか。

     

    (5)シフト制は労基法で規制できないか?

     

     労基法15条は労働条件を明示しなければならないと定め、施行規則で始終業時刻や休日、休暇を明確にするよう求めている。

     さらに、89条(就業規則の作成と届け出義務)の本文で同様の項目を職場の就業規則に記入するよう義務付けている。

     労働者を雇うなら、働く日や時間帯をあらかじめ明示しておく必要があるということ。ところが、少なくないシフト制職場では勤務表に「シフトを変更することがありうる」などと記載する例がある。実際には、事前に特定された日時や時間帯と異なる勤務になるケースが生じるのだという。

     場合によっては、ごく短時間やゼロ時間の勤務に変更するパターンも可能だ。

     こうした労働契約が15条や89条に違反しないのかについて、厚生労働省は明確な解釈を示さず、「法違反かどうかは個別事案ごとに判断される」という姿勢。シフトが組まれていない期間に対して、26条の休業手当支払い義務があると判断するのは困難という。

     現状では、労基法違反を問うのは難しそうだ。

     

    (6)では、どうすればいいのか?

     

     仕事がそれなりにあった時には、シフト制の問題点は表面化しにくかった。ところが、コロナ禍の下で休業手当が支払われないなど、弊害が明らかになる中で、なんらかの対策を考える必要が出てきた。

     労働問題に詳しい中村和雄弁護士は、明示すべき労働条件の項目として「下限労働時間」「最低保障労働時間」「最低保証賃金」を追加してはどうかと提案している。

     現行労基法は労働時間の上限を、緩いながらも規定している。一方、下限についての定めはない。中村弁護士は、労基法1条が「労働条件は…人たるに値する生活を営むための必要を満たすものでなければならない」と定めていることに注目。労働時間や賃金に関して、一定レベルの水準を規定すべきと主張する。

     最低限の労働時間が規定されれば、それに基づいて休業手当の支払いも可能になる。

     

    (7)労働時間の下限規制・最低保障時間を規定することは可能か?

     

     欧州などでは近年、「ゼロ時間契約」が問題となり、それに対応するためのEU指令(2019年)がつくられた。最低限必要な賃金の支払いを保障できる労働時間を労働者に通知すべきとした。

     ゼロ時間契約とは、オンコールワークのように、あらかじめ労働時間を定めず、仕事がある時だけ呼び出して働かせるやり方のこと。あまりにも不安定で不規則なため、一定の規制が必要という労働組合の要求を踏まえて制定されたのが、このEU指定だ。

     日本のシフト制とも共通する問題意識がうかがえる。中村弁護士が提案する下限時間規制も、EU指令の考え方を踏まえた提起といえる。

     

    (8)規制すればシフト制は改善されるか?

     

     休業手当が支払われず、収入の道が断たれるという事態には改善が期待できるが、心配もある。

     規制が強化されれば、使用者は使い勝手が悪くなったシフト制を敬遠して、別の手法に乗り換える恐れが指摘されている。労組役員経験がある元労働基準監督官は「例えば、日雇い派遣や、1日単位でパートやアルバイトの人材を紹介する日々紹介といった形態に流れることが心配。仕事があるときだけ働かせるオンコールワークが広がりかねない」と語る。

     特に、雇用関係があいまいになりがちな日々紹介に規制の網をかけられるかどうか。抜け道を許さない規制のあり方を模索する必要がありそうだ。

     

    ※記事作成に当たり、全労連などでつくる労働法制中央連絡会によるシフト制の批判検討会(3月25日)の議論を参考にしました。