建設アスベスト(石綿)基金制度創設の検討が大詰めを迎えている。焦点は、石綿を含む建材を製造販売し続けてきたメーカーに、いかに資金の負担をさせるか。専門家は、高度経済成長期以降の公害病、四日市ぜんそくなどの既存の補償制度が参考になると指摘する。国と企業の拠出で、現在も機能している制度だ。
公害や薬害、その救済制度に詳しい淡路剛久・立教大学名誉教授は、四日市ぜんそくなどの公害被害者を対象とした公害健康被害補償制度(公健制度)について、「企業責任を集団的に捉えて制度をつくり、個別の排出量に応じて拠出金を負担させる点で(原告らが求める基金制度の)参考、先例となる。現実的な提案だ」と指摘している(3月23日、都内でのシンポジウム)。
公健制度(1974年施行)は、硫黄酸化物など有害物質を出す工場を持つ企業と国の出資で、補償金を給付する仕組み。毎年、硫黄酸化物の排出量に応じて企業が負担金(汚染負荷量賦課金)を出す。約8200事業所が300億円(19年度)を超える額を負担している。負担割合は国が2割、企業8割。(図)
同制度は、高度成長期の四日市公害訴訟が契機となってできた。三重県四日市市の石油化学コンビナート周辺では65年頃から呼吸困難などの健康被害が続出。原因は工場から出たばい煙によるものだとして、公害病認定を受けた被災原告ら12人が67年に企業を相手取って裁判を起こした。72年、津地裁四日市支部は被告企業に共同不法行為があったと認定。被告企業は控訴せず、企業の賠償責任が確定した。
●被害の構図が似ている
公害訴訟に詳しい西村隆雄弁護士(建設アスベスト神奈川訴訟弁護団長)は「被害実態を見ると建設現場での石綿被害と似ている。公健制度では被告企業6社だけでなく、全国の公害汚染地域の企業を出資対象にした」と話す。
四日市公害の被害者は企業のばい煙によって激しい呼吸困難を引き起こしたが、「どの企業のばい煙が直接の原因か」を特定するのは事実上不可能。多くの建設現場で、さまざまな建材を扱う建設従事者の石綿被害と同じ構図だ。
基金創設をめぐっては与野党の動きが活発化している。検討は大詰めを迎えている。
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