トヨタ自動車の21春闘は、3月17日の労使協議会で豊田章男社長が「賃金・賞与について、要求通りとする」と〃満額回答〃した。トヨタ労組は、定昇や諸手当を含めて総額9200円を要求した時、総額にベアが含まれているかどうかを公表しなかった。しかし、職場委員には「(賃金制度)維持分のみを要求」と伝えており、2年連続でベアゼロになった可能性がある。
●2兆円の利益あるのに
トヨタは、21年3月期の営業利益見通しを、コロナ禍にもかかわらず2兆円とし、4年連続で2兆円の大台に乗るというすさまじい利益を確保する。
ところが、今年は4回開かれた労使協議会で、賃金・一時金について全く議論しなかった。「TPS(トヨタ生産方式)」や「カーボンニュートラル」などの〃話し合い〃に終始した。異常である。「会社幹部は『経営会議をしているような不思議な感覚』と振り返った」(中日新聞、3月18日付)という。
●豊田社長の一喝で
19春闘で組合は「改善分を獲得しても、全く配分されない人・職種がいるなら、受け入れにくい」と全員に配分を求めた。会社側は「〃全員一律〃はよく考えないといけない」と否定するなど、当時はまだしも賃金の議論をしていた。
これを聞いていた豊田社長が突然、「組合、会社(幹部)とも、生きるか死ぬかの状況がわかっていない」と一喝。電気自動車化や自動運転化などに携わる米IT企業も巻き込んだ世界の自動車産業は「100年に1度の大変革期」と危機感をあおる豊田社長にとって、トヨタの賃金交渉は我慢のならない議論だったのだ。
社長の一喝で労使協議会は凍り付き、空気は一変した。ベア額は前年に続いて非公表にし、一時金は長年の夏冬年間回答を破り、夏しか答えなかった。
組合は19春闘後、「トヨタが置かれている状況の認識の甘さを深く反省する」という、豊田社長への異例の謝罪文を機関紙「評議会ニュース」に掲載した。
●もはや名ばかり労組?
20春闘では、労使が話し合う会場の配置を、会社の幹部職・基幹職代表の机を加えて三角形にした。組合は「頑張った人に厚く配分」と、人事評価を基にしたベア配分を求めた上に、従来からの春闘集会を中止した。
その流れは21春闘にも引き継がれた。
トヨタ自動車創業家3代目の豊田社長は、副社長制度も廃止するなど今や絶対的存在である。トヨタ労組は、春闘の「リーダー労組」と自称していた時代もあった。だが、労使協議会が「経営会議」に変容してしまった現状をみると、組合は早晩〃名ばかり労組〃になりかねないだろう。(労働ジャーナリスト 柿野実)
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