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    組織力生かし裁判支援/東京、大阪の地方連合会/判例ない領域へも挑戦

     判例がなかったり、未確立だったりする課題で、裁判費用がなく泣き寝入りすることをなくそうと、連合大阪が昨夏、費用の一部を貸し付けるための基金制度を創設した。労働弁護団など、約70人の顧問弁護士の協力を得て、支援体制を敷く。

      既に無期転換権発生直前での契約不更新や、コロナ絡みの休業・解雇で、当事者を支援している。働く者の多くが直面する課題で、闘いに挑む組合員を、人と資金の両面で後押しする試みだ。

     同様の基金を10年前に立ち上げた連合東京は、現在3件の裁判・労働委員会闘争を支援。外国人労働者や子育て中の女性といった、社会の安全網からこぼれ落ちがちな労働者を「共助」の網で押し上げる。

     

    コロナ禍で難題続出/連合大阪

     新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、連合大阪には昨年、3千件の相談が寄せられた。2019年の2400件から25%増。緊急事態宣言下で相談対応を縮小した中での激増ぶりに、いかに働く者が困窮した年だったかが分かる。

     相談内容は、休業手当の不支給、新型コロナ感染経路不明の際の労災補償、勤務シフトに入れないケースでの休業補償――など難題が相次いだ。

     判例のない事案も多く、「今後の法整備に向け、判例の積み上げが必要不可欠」だとして、連合大阪は昨夏、500万円を拠出し、「訴訟BACK UP基金」(通称・BUILT基金)を立ち上げた。約70人の連合大阪法曹団の協力も得て、運営する。

     香川功副事務局長は「残業代未払い案件のほかは、裁判をしても経費倒れになる可能性が高く、泣き寝入りしがち。そのため、経営者による違法の『やり得』となっている。例えば、最近では、勤務シフトに入れず休業手当も支払わない、しかし解雇もしない、従業員を辞めるように仕向けるという事案が多発している。こうしたケースを含めれば、実際の解雇件数は、国が発表する解雇件数をはるかに上回るというのが現場の実感だ」と話す。

     支援対象として(1)司法判断がないか、未確立の事案(2)訴訟を通じて社会に問題提起すべき事案(3)権利実現・救済のために訴訟での解決が必要だが、経済的に困難な場合――を挙げる。

     

    ●泣き寝入り防げた

     

     基金設立後、2件の裁判を支援している。一つが、自治体の公社で働いていた、連合大阪地方ユニオン組合員。1年契約を4回繰り返し、無期転換の権利を得る直前の5年目の更新で雇い止めにされた。制定時の国会答弁で「脱法行為」とされた行為だ。

     無期転換ルールは発動からまだ3年弱。雇用が不安定な非正規労働者の多くが直面する課題である。

     もう一件は、マスク着用で体調を崩した労働者が、フェイスシールドなどの代替措置を求めたが認められず、著しい肺機能障害が生じた事件。着用命令の無効確認と、休業補償10割支給を求めている。

     香川副事務局長は「慰謝料がほとんど認められない事案。制度がなければ泣き寝入りしていたと思う。労組のある職場は交渉で解決できる。組合のない労働者に広げたい。連合大阪地方ユニオンに入ってもらい、解決していく」と話す。

     

    外国人、女性を支援/連合東京

     連合東京は2011年に労働裁判の着手金や費用を立て替える「労働裁判支援基金」を創設した。主に、1人で加入できる、直属の連合ユニオン東京の組合員が対象。まずは交渉による解決を重視し、組合員の権利を守る最後の手段として裁判を活用する。その際の「共助」の支え合いとして機能させている。

     11年に1千万円を拠出して創設した。1人50万円まで貸し出すことができ、裁判終了時点で清算する仕組み。労働弁護団などの顧問弁護士の協力を得て運用している。

     現在3件の訴訟を支援している。一つが、カレー店チェーンでの残業代などの支払いを求めるインド人労働者の裁判。斉藤千秋事務局長は「残業代だけではなく、最低賃金も割っており、諸経費も差し引かれている。どんなに理不尽な目に遭っても、就労ビザとの兼ね合いで、物を言えない立場にある。日本での外国人労働問題の縮図ともいえる」と話す。このほか、外国人講師の解雇裁判の原告も支援する。

     三つ目が、「マタハラ」を問う女性の労働争議。育児休業終了後も子の預け先がなく、契約社員となることを余儀なくされ、雇い止めにされた事案。他のユニオンが支援しているが、二審敗訴後、弁護士らの要請により、連合本部と連合東京が支援に加わった。

     争議は現在も継続中だ。雇い止めは不当労働行為だとして救済を求めている。東京都労委は昨年9月、会社側に救済を命じた。現在、中労委に舞台を移している。

     

    ●「頑張ろう」と言える

     

     基金を活用しているのは、外国人労働者や育休中の女性など、いずれもセーフティーネットのはざまで苦しむ労働者たち。斉藤事務局長は「この資金がなかったら裁判を起こせなかったと思う。社会的な課題に直面しながらも、先立つものがなく泣き寝入りせざるを得ない人に、労働組合の方から『頑張ってみましょう』というお話しができる」と意義を語る。

     交渉による解決を重視しつつ、いざとなればいつでも、困っている人の支援に踏み出せる。財政力と組織の強みを生かした仕組み。外国人、非正規、女性――と、労働協約に守られない未組織労働者を支援する、地方組織ならではの役割に厚みを持たせている。