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    ギグ労働者保護の流れ強まる/欧州の司法判断/雇用関係認める判決相次ぐ

     ウーバーなどに代表されるギグ労働者の保護をめぐる動きが欧州でめまぐるしい。昨年は、フランス、イタリア、スペインの最高裁が労働者性を認める判決を下した。「ウーバーとその運転手が、デジタルプラットフォームを介してつながっている際、両者の間には従属関係が存在する。運転手は独立事業主だという主張はフィクションだ」(フランス)と断定するなど、欧州ではギグ労働は単発の仕事を繰り返す請負ではないという司法判断が定着しつつある。

     

    ●社会保険の適用は当然

     

     留意すべきは、イタリアとスペインの場合、労働者と独立事業主との間に中間的な類型があるという前提で判決が下された点だ。英国でも現在、下級審が原告の元ウーバー運転手について、労働者とは異なる「就労者」に分類した事件が最高裁で争われている。一方、仏最高裁はこうした第3の類型は「フランス法には存在しない」と明記した。

     スペインでは昨年9月末に食事配達サービスのグローボと元配達員の間に雇用関係を認めた最高裁判決が出て以来、労働者性を争った裁判で原告が41勝している。

     今年1月には、バルセロナの裁判所が食事配達のデリバルーに対し、配達員748人の社会保険料が未納だったとし、130万ユーロ(約1億6510万円)の支払いを命じた。この地域の急進的な労働組合グループの運動を通じ、社会保険局が原告となった。こうした「偽装請負通報運動」は2大労組ナショナルセンターも各地で取り組んでおり、同局はここ数年間で約1万8千人分の未納金2600万ユーロ(約33億200万円)を、グローボ、アマゾン、デリバルー、ウーバーから回収している。

     

    ●アルゴリズムの開示を

     

     最高裁でフードラの元配達員が逆転勝訴したイタリアでは、報酬などに関して料理配達会社と労働組合の労働協約締結を可能とする新法が制定されている(2019年)。3大労組センターは、物流ロジスティクス業の産業別協約を食事配達員に適用することを目指している。

     これを回避しようと、ウーバーイーツやグローボ、デリバルーなどでつくる業界団体は昨秋、実体の乏しいUGLという極右の労組センターと協約を締結。そこでは配達員を独立事業主扱いとしているため、3大センターは強く反発。「時給10ユーロ(約1270円)を保障するとあるが、60分間フル稼働しないと支給されない、まやかしものだ」などと批判している。

     3大センターの一つである労働総同盟(CGIL)は、デリバルーのアルゴリズム(人工知能による労働管理)によって、ストに参加したり病気で休んだりした労働者が配達回数を減らされたのは差別に当たるとボローニャの裁判所に訴えた。同社は判決前に慌てて設定を変更したが、裁判所は昨年末、原告の主張を全面的に認め、5万ユーロ(635万円)の罰金を科した。

     

    ●使用者責任の追及へ

     

     英国の組合も、ウーバーなどにアルゴリズムの情報開示を求め、裁判で争っている。スペインでは、食事配達員を保護する新法制定の動きがあり、労働側はアルゴリズムの情報開示に関するルールの制定を求めているが、ギグ企業側がかたくなにこれを拒んでいる。

     こうした一連の動きを受けて欧州労連(ETUC)は今年1月、ギグ企業が使用者としての責任を果たすよう、欧州連合に一層の努力を求める声明を発表した。(国際運輸労連政策部長 浦田誠)