厚生労働省の専門家会議は3月18日、「ゲノム編集」技術を使った食品を流通させる際のルールについて、最終報告書をまとめた。ゲノム編集技術による食品の安全性審査などは必要なく、事前の届け出だけでよしとされた。現在開発が進められている農水産物は、消費者庁で表示の検討を経た後、早ければ夏にも販売できるようになる見通しだ。
●EUは規制を検討
ゲノム編集は遺伝子を操作する最新の技術で、日本では収穫量が多いイネや体の大きなタイ、特定の成分が多く含まれるトマト、食中毒を起こさないジャガイモなど新しい品種開発が進んでいる。
専門家会議は「ゲノム編集技術による食品は従来の品種改良技術によるものと変わらない」との見解を示している。だから安全性審査は不要という理屈だが、ただし、新たに組み込んだ遺伝子が残っている場合には安全性審査を行うという。大豆やトウモロコシなど、遺伝子組み換え技術による食品は、これまでも国は毒性や発がん性、アレルギー誘発など安全性の審査を行い、安全と判断された場合に販売が認められてきた。
消費者団体などは、日本政府の拙速な判断に大きな懸念を抱いている。米国は原則として特別な規制をしない方針だが、欧州連合(EU)では司法裁判所がゲノム編集に遺伝子組み換え技術と同じ規制を適用すべきとし、具体的な制度も検討されている。先進国の中でも対応は異なる。つまりそれだけ議論の余地があり、政策的な選択肢も多様であるという状況の中で、日本政府は突出してゲノム編集の販売・流通を急いでいるのだ。
●食料メジャーの意向
その背景には、まず米国がこの間進めている貿易協定との関係がある。環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱後、米国は韓米自由貿易協定(FTA)や北米自由貿易協定(NAFTA=メキシコ、カナダとの貿易協定)の再交渉を進めてきた。NAFTAはUSMCAと名称を変えて交渉が終結。現在は3カ国の批准プロセスにある。
TPPは、遺伝子組み換え作物などいわゆるバイオテクノロジー製品の貿易を促進することを明文化した初めての貿易協定である。ここにはもちろんモンサントやカーギルなど米国の食料メジャーの意向があった。米国がTPPを離脱した後も、この条項はそのまま生きている。
米国は、続くNAFTA再交渉の際、TPPで規定したバイオテクノロジー製品の定義をさらに拡大し、ゲノム編集による食品も含めることに成功した。今後始まる日米貿易協定交渉においても、米国が同様の条項を規定することは間違いない。
●日米が共同歩調
もう一つの背景は、日本政府自身がバイオテクノロジーを推進し、ゲノム編集の研究も強力に進めているという事実だ。今回のゲノム編集食品の解禁は、米国と日本がぴったり歩調を合わせる形であり、規制なしの自由な流通が解禁された後に、日米貿易協定でも明文化される流れになることが懸念される。(アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子)
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