経団連の春闘対応指針である2021年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)が1月19日に公表された。コロナ禍の影響を理由に「一律の賃上げ」には現実的ではないと述べつつ、今年もベースアップを「選択肢」と明記。生産性向上を実現する中で「賃金引上げのモメンタム(勢い)を維持することが望まれる」と、2014年以来の賃上げ継続の姿勢を踏襲した。
報告は、新型コロナ禍の影響により、業績が企業によりまだら模様であると指摘。今年も「業績横並びや各社一律の賃金引上げを検討することは現実的ではない」とくぎを刺し、「自社の実情に適した賃金決定」を促している。
基本給については、「賃金水準の引き上げ(ベースアップ)を行うことも選択肢となろう」と容認。だが、昨年同様、一律の配分ではなく、業績・成果による査定配分や、役割や貢献による重点的配分を奨励している。
手当については、雇用期間の有無による不合理な格差がないか検討を求めたほか、テレワークに必要な通信費などの費用の支援や、通勤手当の見直しを挙げる。一時金については業績や評価に応じた配分を強調、業績悪化の企業には慎重な検討を呼びかけた。
報告は、特定の仕事・職務、役割・ポストに人を割り当てるという「ジョブ型雇用」や、時間・空間に縛られない働き方を広げる「働き方改革」の必要性を繰り返し強調。生産性向上を実現し「賃金引上げのモメンタムを維持していくことが望まれる」とした。
【メモ】社会の課題に向き合わず
経労委報告はコロナ禍でもベアを容認した。賃金が先進国で唯一低下したことへの批判の広がりもあり、賃上げ継続は定着した感がある。一方、賃上げの波及を抑え、莫大(ばくだい)な内部留保を正当化。最低賃金にタガをはめ、労働規制緩和も進める考えだ。
報告は「賃上げのモメンタム維持」を繰り返す一方、あくまで個別企業の判断だとし、社会全体に賃上げを波及させる、春闘本来の機能には警戒心を隠さない。中小企業の賃上げには敵対的でさえある。
貧困や過労死がなく、安心して働ける賃金と雇用の実現こそ、日本社会が向き合うべき課題。457兆円もの内部留保に象徴される配分のゆがみの解消が必要だ。だが、報告にそうした問題意識はみられない。
逆に賃上げを維持するには、解雇が比較的容易な「ジョブ型雇用」の普及や、過重労働に陥りがちな裁量労働制の拡大などの「働き方改革」が必要だとして、働く者のセーフティーネットに切り込もうとしている。
社会の課題に向き合わない姿勢は変わっていない。
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