「ご冗談でしょう、ウーバーイーツさん。あなたの会社で働いている人たちが仕事中に死んでいるのに、それを交通安全の問題にすり替えるんですか?」
オーストラリア運輸労組(TWU)のエミリー・マクミランさんがこうツイートで怒りをあらわにしたのは11月23日のこと。この日シドニーでウーバーイーツの配達員がトラックにはねられ、死亡した。9月から5人目の交通事故死であり、単発の仕事を請負として繰り返すギグ労働者の処遇改善や組織化を目指しているTWUや配達員の全国連絡会に大きな衝撃が走った。しかしウーバーは、「交通安全に一層努める」と述べるにとどまった。
●3人に1人がけが
オーストラリアでもコロナ禍でオンライン注文による食事配達の需要は高く、ウーバーイーツに代表される各社の配達員たちは「ヒーロー」と称賛されてきた。しかし、TWUが9月に公表した労働実態調査では、回答した200人の手取りは時給換算でわずか10豪ドル程度(約806円)。しかも、配達員の増加や会社の一方的な手数料引き上げでこの間、9割が収入減を経験していた。最低賃金の保障がないため、配達回数を増やして稼ごうとし、先を急いで事故を起す傾向にあり、組合の調査でも3人に1人が仕事中にけがをしていた。
一連の死亡事故を受け、ニューサウスウェールズ州政府は検討委員会を設置して、ギグ労働の実態調査に乗り出す。
組合は同25日、国会議員やナショナルセンター代表らと共にウーバー社前で追悼式を開き、配達員を独立事業者として扱い労働者保護を怠っている同社やオンライン食事配達業の規制強化に及び腰の連邦政府を改めて非難した。野党労働党は、配達員の多くが海外からの留学生や移住労働者であるため、国は本格的な対策をとらないのだと指摘している。
●コロナ対策で協定例も
TWUは今年1月、配達員の全国連絡会と共に「権利の憲章」を発表し、(1)最低賃金の保障(2)週末・祝祭日や深夜労働の割増手当支給(3)配達の割り当てに関する情報公開(4)賃金や安全対策の団体交渉――などを各社に求めた。その後、ドアダッシュ社(本社・米国)が唯一、TWUとコロナ感染対策に関する協定を結び、コロナ陽性と判定された配達員に対する財政援助などを取り決めている。
2年前には、フードラ社(本社・ドイツ)で働く配達員の労働者性が労働審判で認められ、同社はTWUを通じて配達員1700人にバックペイ300万豪ドル(2億3200万円)の支払いで合意した。現在、オーストラリアでの事業は行っていない。(国際運輸労連政策部長 浦田誠)
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