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    労働時評/賃金・雇用劣化の打開へ/コロナ禍で21春闘が始動

     2021春闘は、66年の歴史で経験したことのないコロナ禍の下での交渉となる。実質賃金の低下が続くなか、ベア抑制など経営側の利益最優先を改めさせ、命、暮らし、権利を優先する構造転換の春闘が求められている。

     

    ●「旗を掲げ続ける」

     

     連合の神津里季生会長は 「雇用と賃金は二律背反ではない。この20年間で進行した賃金と雇用の劣化からの反転を目指し、月例賃金の引き上げ(ベア)にこだわり、旗を揚げ続ける。日本の賃金構造の抜本的改革や雇用対策で政労使対話を」と強調している。

     春闘方針案では、世界的な経済成長率の急落や雇用不安、収入減少などコロナ禍で明らかになった社会の脆弱(ぜいじゃく)さを指摘。その克服のため、賃上げの流れを止めず、内需拡大と分配構造の転換、雇用確保などを重視する。医療・介護、物流などのエッセンシャルワーカーの処遇改善も掲げている。

     要求水準は、定昇相当分(2%)確保を大前提に、ベア2%程度については「それぞれの産業における最大限の『底上げ』に取り組む」として、産業の業績格差に配慮した要求となっている。8年連続の同水準要求だ。中小組合については定昇相当分4500円にベア2%・6千円を合わせた総額1万500円以上を目安に設定。格差是正へ年齢別の個別賃金も重視している。

     

    ●赤字企業でも春闘

     

     UAゼンセンは雇用維持を重視。業種ごとに業績の差が大きく、正社員は「定昇相当+格差是正分2%(ベア)目標」と幅を持たせ、パートは定昇込み4%を目標に設定した。労働時間短縮など12項目の働き方改善も掲げている。

     JAMは昨年同水準のベア2%・6千円と定昇4500円の1万500円を要求し、公正取引の確立を重視している。

     コロナ禍で会社が赤字に陥るJR連合は11月25日、危機打開集会を開催。経済の回復には個人消費の拡大が必要とし、格差是正重視のベアを検討している。自治労の民間中小組合も昨年同様ベア2%、定昇込み4%を掲げる方向だ。

     

    ●揺れる、金属の共闘軸

     

     金属製造業労組でつくる金属労協は共闘軸が問われる春闘となりそうだ。

     自動車総連は19春闘から産別のベア要求を設定しない、企業連・単組自決の方針だ。トヨタは21年3月期の純利益が当初見通しの約2倍の1・4兆円に上方修正した。しかし、20年はベアゼロ、21年も「査定で定昇ゼロも」と報じられ、動向が注目される。

     電機連合は業績評価の「ジョブ型雇用」を制度課題に設定。産別統一闘争では、「妥結の柔軟性」でベアと手当の合算などを論議の課題に上げている。

     基幹労連は複数年春闘で鉄鋼大手などは昨年ベアゼロで決着。来春は中小労組中心の春闘となる。

     

    ●テレワークで労使協議

     

     コロナ禍での働き方改善で、連合は長時間労働の是正やジェンダー平等など14の課題を掲げる。雇用安定の課題では、セーフティーネットの機能強化と労使協議、国・自治体の助成金活用などを提起している。

     テレワークでは、労使協議で対象者の範囲、労働時間、安全衛生、経費負担などを労使で協定するよう呼びかけ、就業規則モデルも提示した。

     「同一労働同一賃金」の改正法は21年4月から中小企業にも適用が始まる。賃金、一時金、各種手当の待遇差の是正を掲げている。

     

    ●内部留保課税に踏み込む

     

     全労連などは春闘方針案で、新自由主義から「新しい社会への転換」を提起。「コロナ禍だからこそ大幅賃上げ・底上げ」や、総選挙で「憲法が生きる政治」を掲げた。過去最高の499兆円に上る内部留保への課税を初めて求める。

     賃上げ要求案は、生計費原則と春闘アンケート結果を踏まえ、3年連続となる月額2万5000円以上、全国一律最賃の時給1500円を設定。働き方の改善では、雇用の安定や労働時間短縮などを挙げる。統一行動では、ストや大企業包囲行動、160万枚のビラ配布も展開する。

     医労連は医療崩壊の打開を訴える300万「いのち署名」を展開、昨年同水準の賃上げ4万円以上などを掲げてたたかう方針だ。

     JMITUは3万円以上を掲げ産別統一ストを重視。自交総連はコロナ禍で組合結成が相次ぐ。「生活保障に税金を回せと地域総行動を行う」(道労連)ことも報告されている。

     全労連の小畑雅子議長は就任後初の春闘で「負のスパイラルにならないよう、要求を大きく掲げて前進を」と強調。黒澤幸一事務局長は「コロナ禍春闘で強力な組合になり、真価発揮を」と呼びかけている。

     

    ●激しいせめぎ合いに

     

     経団連は雇用問題を口実にベア抑制を打ち出す。既に実質賃金は9月で1・1%減と6カ月連続のマイナス、家計支出も10・2%減と12カ月連続のマイナスに転落し、個人消費拡大のための、分配の構造転換は不可欠となっている。

     連合は21春闘で「雇用も賃金も」を掲げる。コロナ後の社会像として、命と生活、雇用を守るため、「貧困問題や巨大企業への富の集中の解決」「新自由主義からの転換」(神津会長) を目指し、社会、経済、政治の変革を掲げる。全労連も春闘で新自由主義から「新しい社会への転換」を訴える。

     コロナ禍での21春闘は、ベアや働き方をめぐる労使のせめぎ合いの闘いとなる。経済と政治の変革につながる総選挙を視野に、春闘での労働組合の奮起が期待されている。(ジャーナリスト・鹿田勝一)