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    寄稿/労契法20条訴訟の最高裁判決/ジャーナリスト・竹信三恵子

     大阪医科大学訴訟、メトロコマース訴訟、郵政訴訟の労働契約法訴訟最高裁判決は、働き続ける上での諸費用としての手当で不合理な格差の是正を求めつつ、賞与など賃金本体に対する会社の裁量権の大きさにはお墨付きを与えるものとなった。

     郵政職場は、非正規を恒常的に必要としてきたにもかかわらず、多くの手当で正社員と差をつけてきた。たとえば、正社員には90日の有給の病気休暇があるが、非正社員は無給で10日のみだ。病気のため年休まで使い果たし、退職していった非正社員もいる。働き続けるための費用に正規も非正規もない。そこに歯止めをかけたことは大きな前進だ。

     一方、メトロコマース訴訟や大阪医科大訴訟での退職金、賞与などについては、「有為な人材」かどうかや、労契法20条の「配置の変更の範囲」の判断基準によって正社員との相違があるとし、格差は不合理ではないとされた。

     2018年の長澤運輸訴訟では、20条の「その他の事情」という判断基準によって基本給の格差を容認する判断も出ており、賃金本体での企業の裁量権の大きさを確認する形となった。

     

    ●労契法の弱点明らかに

     

     賃金は本来、労働の対価だ。にもかかわらず、「有為な人材」といった主観的な判断や、配置転換が「あるかもしれない」という予断、「その他の事情」などを広く取りすぎれば、職務で業績を上げても会社の判断ひとつで賃金に反映されなくなってしまう。

     このような会社の判断の恣意(しい)性を防ぐため、国際労働機関(ILO)は同一価値労働同一賃金へ向け、第三者機関による職務分析と点数化による格差の可視化を提案している。こうした偏見に対抗する客観装置に乏しい労契法の弱点が、今回は浮き彫りになった。

     これらは、特に非正規の7割を占める女性にとって深刻だ。女性の仕事は価値が低いという偏見にさらされがちなうえ、諸手当は世帯主に有利なものが多く、女性の収入引き上げへの波及効果は必ずしも大きくないからだ。

     20条の立法趣旨を生かすために、また、職務がまったく同一でなくても、その相違に沿った処遇を考量するという、パート労働法などに規定されている均衡処遇の観点からも、会社の裁量を客観的に検証する制度の強化が急がれる。

     

    ●労使交渉の推進が鍵

     

     今回の三つの訴訟で勝ち取った夏季休暇や諸手当についての格差是正は、原告や労組、弁護団の粘り強い活動の成果だ。世論はもちろん、本来の法の趣旨、ガイドラインでの文言を最大限に生かし、労使交渉を推し進めていくことこそが制度強化の原動力となることはいうまでもない。