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    退職金や賞与の格差が焦点/20条裁判の最高裁弁論/メトロと大阪医科大事件

     有期契約労働者への不合理な待遇格差を禁止する労働契約法20条をめぐる裁判で、最高裁判所第3小法廷は9月15日、二つの口頭弁論を開いた。大阪医科大学事件とメトロコマース事件で、退職金や賞与といった生涯年収を大きく左右する請求項目の扱いが争点だ。両事件の判決は10月13日に言い渡される。

     

    非正規差別は人権問題/大阪医科大学事件

     原告の女性は2013年1月から16年3月末の間、研究室の秘書業務に従事した。契約はフルタイムのアルバイト職員で、時給制。正規職員の秘書よりも業務量が多かったものの、年収は新規採用の正規職員の半分程度だった。基本給などの格差は不合理だとして15年8月、大阪地裁に提訴すると、年度末に雇い止めにされた。

     大阪高裁は、賞与の6割支給や夏季特別休暇、私傷病休職中の給与支給(休職給)の一部を認めた。最高裁では、労使双方が申し立てた賞与と休職給について審理された。

     弁護団は賞与について、算定の対象期間に在籍した者に、一律の支給率で支払われ、有期雇用の契約職員にも正職員の8割が支給されていると指摘。職務内容や配置変更などの要素とは関係がないとして、均等待遇で10割の支給を求めた。大学の主張する経営判断が入る余地があるとしても、職務の内容などに応じた均衡待遇をすべきであり、全くの不支給は不合理と強調。更新上限5年の契約職員にも支給されている事実から、「長期雇用のインセンティブ」と関係のない制度であることは明らかだと述べた。

     大学が訴えている「企業の経済活動の自由」という見解にも反論。労働者は機械ではなく、人間として尊厳を守られるべき存在であり、差別的取り扱いの禁止や均等待遇は憲法が定める「法の下の平等」や「個人の尊厳」に根ざすものだと訴え、20条の立法趣旨を最大限生かした判決を求めた。

     意見陳述に立った原告の女性は、低い処遇のまま業務量が増加して体調を崩し、無給で欠勤扱いの休職になったことなど、提訴に踏み切った経緯を語った。「コロナ禍では非正規労働者が真っ先に雇い止めにされるなど、状況は過酷になっている。差別されてきた非正規に希望の光を与えてほしい」と述べた。

     

    実態は正規より長期雇用/メトロコマース事件

     東京メトロの売店で働く契約社員らによる訴訟では退職金の支給をめぐり弁論が行われた。正社員の場合、退職時の本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた額が支給される。自己都合退職の場合でも、勤続3年から対象になっている。

     弁護団は退職金が「賃金の後払い」と「功労報償」の二つの要素を兼ね備えていると説明。その上で、東京高裁が「功労報償」として4分の1の支給を認めつつも、有期契約労働者は短期雇用が原則だと言って、「賃金の後払い」部分の支払いを認めなかったのは誤りと主張した。原告らの定年は正社員と同じ65歳で、そのうち3人が勤続10年以上なのに対し、正社員は親会社(東京メトロ)の退職者が多く採用され、勤続年数が平均10年に満たないのに退職金が支払われているなど、実態を示して不合理さを問いただした。

     

    差別の根源は基本給/20条原告らが集会で訴え

     弁論後、二つの訴訟の原告は合同の報告集会を国会内で開いた。20条をめぐるこれまでの判決では手当や休暇に一定の是正が見られる一方、生活に最も影響の大きい基本給の格差が残されたままだ。こうした判断が続けば、非正規雇用の差別はなくならないという意見が相次いだ。

     メトロコマース事件の原告、後呂良子さんは3月末に定年退職した。コロナ禍で次の仕事が見つからず、現在はポスティングの請負で生活費を稼ぐが時給換算で300~500円程度にしかならないという。「退職してわかったのは、基本給(の格差)が差別の根源だということ。失業保険の給付額がとても少ない。退職後の生活までも圧迫し、差別は死ぬまで続く。そういう社会は間違っている」と憤った。

     別の20条裁判原告で、日本郵便で働く浅川喜義さんも集会に駆けつけた。「基本給は安く、最賃並みで格差がある。20条に魂を吹き込むのは私たちの役割だ。手当の格差を是正する判決が出ても、(基本給をめぐって)闘わなければならないはずだ。非正規が安心して暮らせる世の中を作っていかなければならない」と訴えた。

     ジャーナリストの竹信三恵子さんは日本の賃金差別の構造を問題視した。「非正規労働者は雇用の調整弁」「女性は家計補助」といって、賃金が低くても仕方がないと非正規労働者に思い込ませ、経営者が利用してきたと批判。「その結果、人々の尊厳は傷つき、やる気を失い、社会が壊れる。賃金デフレが進み、消費は振るわず、景気はよくならない」と批判。基本給の差別撤廃や同一労働同一賃金を諦めてはならないと呼びかけた。

     

    〈写真〉報告集会で差別撤廃を訴えるメトロ原告の後呂さん(右、9月15日、都内)