日本郵便で働く有期契約社員が、同じ業務の正社員との労働条件の格差是正を求めている労働契約法20条裁判で、最高裁判所第1小法廷が9月10日、弁論を開いた。訴訟は東日本と西日本の二つで、高裁判決の内容が異なるため、統一した判断が示される見通しだ。判決は10月15日に言い渡される。
最高裁で上告が受理され、弁論の対象になった請求項目は(1)年末年始勤務手当(2)扶養手当(3)夏期・冬期休暇(4)有給の病気休暇(5)祝日給(年始割増)――の5点。東西の高裁判決で不合理とされた住居手当の不支給は、会社側の上告が不受理となったため、原審判断が確定した。
●病気休暇で違う扱い
東日本訴訟の弁論では、佐々木亮弁護士が病気休暇について論じた。正社員の場合、勤務1年目から有給で90日取得できるが、有期契約社員は無給で10日。会社側は、正社員が定年まで会社に貢献するための「長期雇用のインセンティブ」(有為人材論)であり、不合理な格差ではないと主張。こうした論理に対し佐々木弁護士は、10年以上勤務する有期契約社員は多数存在し、郵便や配送を担う主要な戦力である事実を全く踏まえていないと反論した。
その上で、検査や回復に日数が必要な新型コロナウイルス感染症を例に挙げ、有期契約社員が感染すれば、生活は瞬く間に苦境に陥るが、無期契約社員(正社員)には有給の制度があり、賃金が減らされることはないと指摘。「同じ郵便業務を支える仕事をしているのに、ここまで格差があることを、労働契約が有期か無期かで説明できるのか」と述べ、不合理さを訴えた。
●勤続5年未満を差別
東西の高裁判決が大きく異なる点は、「通算5年基準論」だ。大阪高裁は、年末年始勤務手当などについて、勤続年数5年未満の場合、正社員との格差は不合理ではないと判断した。弁護団は、20条の考慮要素に契約期間の通算年数は関係がなく、これまでの別の20条裁判の最高裁判決も年数を一切考慮していないと主張した。
「通算5年基準論」になれば、5年未満の有期契約労働者は、18条の無期転換権の行使も、20条による労働条件の格差是正も求められないと批判。有期契約労働者の公正な処遇を目指す法の趣旨を没却し、格差をさらに拡大させかねないと強い懸念を示した。
弁論後の会見で東日本訴訟原告の浅川喜義さんは、年末年始勤務手当について「年賀状は一番のイベント。年末年始は、短時間の主婦パートも8時間まで働かせておきながら、会社が手当を1円も支給しないのが許せなかった」と語った。会社は高裁判決後に年末年始手当の一部や住宅手当を廃止した。「われわれが裁判で勝ち取ったものを廃止して、コストを削減するのは許されない。法律を骨抜きにはさせない」と語気を強めた。
●有為な人材かどうか?
西日本訴訟弁護団の中島光孝弁護士は、同じ20条裁判のハマキョウレックス事件でも代理人を務めた。同事件の最高裁判決は「長期雇用のインセンティブ」(有為人材論)に触れず、各手当の趣旨や目的で不合理か否かを判断したと説明。
「働き方改革が進められ、パートタイム・有期雇用労働法が施行された今、旧来型の長期雇用システムを前提とした議論がどこまで通用するか。コロナ禍で経営が疲弊する中、経済情勢を見て忖度(そんたく)し、企業の立場で有為人材論に合理性があると示す恐れがある」と強調した。
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