インターネットを通じて単発の仕事を繰り返すギグ労働者。その保護をうたう米カリフォルニア州法「AB5」(以下、州法)をめぐる攻防が熾烈(しれつ)を極めている。ギグエコノミーの代表的な企業であるウーバーとリフトは最近、保護策に抵抗して同州で展開するライドシェアサービスの一時中断にまで言及した。
●裁判所が仮命令
カリフォルニア州の上級裁判所は8月10日、州司法長官らの訴え(別表参照)を認め、州法に基づいて運転手を10日以内に独立事業者から従業員(雇用労働者)に切り替えるよう求める仮命令を出した。ウーバーとリフトはこれに猛反発したのだ。ただ、土壇場で上告が認められたため、サービス中断の脅し文句は取り下げた。口頭弁論は、10月13日に開かれる。
11月3日には、州法を問う住民投票が実施される。これは、両社および食事配達のドアダッシュなど主要な企業が1億ドルを超える資金を投じて、実施に必要な賛同署名を集めて州に認めさせたもの。最低賃金を上回る賃金や医療保険料への補助を出す代わりに、各社の運転手・配達員を州法の適用除外にすることを目指している。
ウーバーは、運転手を従業員として処遇しないことによって、年間5億ドルもの支出を節約しているといわれる(リフトは2億ドル)。だからこそ、偽装請負を正す州法を骨抜きにしようと必死なのだ。
●本業運転手は暮らせず
「大多数のライドシェア運転手は副業だから自由な働き方を求めている」という住民投票推進派の主張を裏打ちするアンケート結果があるのは事実だ。しかし、ウーバーやリフトが売り上げの大部分を依存しているのは、「自由」ではない少数の本業運転手だ。
だが、両社は運転手たちをずっと冷遇してきた。赤字を解消できないためで、ウーバーは過去2年間に6回も一方的に運転手の賃金をカットした。3割の減収に現場では不満が鬱積(うっせき)しており、とりわけフルタイム運転手の憤りは強い。
「週60時間以上働いても、手取りはわずか600ドル(約6万3600円)。燃料費などを自己負担しない従業員だったら40時間で済む計算だ。空いた時間に家族をディズニーランドに連れていける」と、州法を強く支持するロサンゼルスのライドシェア運転手連合(RDU)の幹部、ニコル・モーア氏は語る。いわく「自由な働き方は、労使交渉で決めればよい」。
●今後は住民投票へ
新旧労組によってここ数年、ギグ労働者の運動が一気に広まり、州法の実現に大きく貢献した背景には、こうしたあからさまな搾取の構図がある。来る住民投票にむけ、労働界は州法死守の運動をヒートアップさせていくことだろう。(国際運輸労連政策部長 浦田誠)
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