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    〈働く現場から〉特殊詐欺の受け子(5)/派遣労働者から風俗へ/ジャーナリスト 東海林智

     コロナ禍によって無収入になった女性は、食い詰めて、特殊詐欺の現金引き出し役の「受け子」に手を染めた。「カードを奪うのに失敗した」と言っていたが、実はそれはうそだった。彼女は具体的に現金を引き出そうとしたのだ。

     現金を下ろすため現金自動預払機(ATM)へ向かったものの、現金を引き出せなかったのだという。「指紋認証が必要なカードだった」からだ。カードが押し戻されると、何事もなかったように抜き取ると、速足でその場を離れた。監視カメラには自分の姿が映っているはずで、怪しくないように振る舞った。

     カードを使えなかった時に感じた恐怖はトラウマになった。それがうそをついた理由だ。「罪を犯した意識はあるんです。少しでも、軽い行為にしたくて、とっさにうそをついてしまった」と下を向いた。

     

    ●もう死ぬしかないか

     

     「収入を得る道がない時に、即日、現金を手に入れるには犯罪しかなかった。でも、この失敗で怖くなり、もう受け子は無理だと思った。アパートを追い出されたら、死ぬんだろうなあと覚悟しました」

     時折、言葉に詰まりはしたが、許しを請うかのように、話し続けた。その後、こんなふうに生きた。「アパートを追い出されるまでは生きよう」「(特別定額給付金の)10万円をもらって、使いきってから死のう」。

     小さな目標を作りながら、かろうじて生をつないだ。そうこうしているうちに緊急事態宣言が解除され、例の店長から電話がきて「店開けるけど、来る? 当分は(収入にならず)大変だと思うけど」。それが、最善の道でも、望んだ道でもなかったが、涙が出た。「誰一人気にかけてくれる人なんていなかったから」

     

    ●家賃滞納で追い出され

     

     北関東の田舎町から上京した。医療系の専門学校に入ったが、本当はネイリストなど美容系の仕事に就きたいと思っていた。「堅い仕事」に就くための進学しか許されず、決めた進路だった。だから、勉強にも身が入らず、カフェやネイルサロンなど〃華やかな場所〃でのバイトに熱中した。専門学校には行かなくなり、仕送りも断たれた。

     生活費を稼ぐため、安定した仕事に就きたかったが、正社員の仕事はなく、派遣に登録して働くしかなかった。紹介される仕事は、どこにでも行った。物流倉庫や事務派遣、工場も。どこも長くは働けず、日雇い派遣のように、短期間で仕事の場が変わった。1年半前、仕事が回ってこない時期があって家賃を2カ月滞納し、追い出された。

     「仕事がないわけではなかったが、支払いの歯車が一つ狂うと、全てがおかしくなった」。寝場所はネットカフェに変わり、家財道具はスーツケースとキャリーバッグに全て詰め、引いて歩いた。住居をなくし不安しかなかったが、女性専用のフロアがあるネットカフェで同じような〃仲間〃と知り合え、情報交換もできた。同じ境遇だと思うと何でも相談できた。

     

    ●同じ境遇の〃仲間〃も

     

     風俗の仕事もそこで紹介された。抵抗はあった。だが、多くの子がそうやってしのいでいると知り、「自分もそうするしかないのか」と諦めの気分だった。

     そのフロアで語られることは、働く女性にとっての〃優良店〃や危険な店の情報、ギャラから仕事内容までと赤裸々だ。例の店長の店も優良店だと紹介された。ネットカフェから派遣の仕事に行くようになって半年ほどたったころだ。〃快適〃に思えたネットカフェの生活も限界だと感じていた。(続く)