新型コロナウイルス感染症が広がる中、高齢者とその家族の生活を最前線で支えてきた介護労働者。高齢者は重症化のリスクが高く、クラスター発生も懸念される。国から介護職員への慰労金の申請手続きも始まったが、それで十分なのかどうか。第1波の様子を振り返りつつ、2人の職員に話を聞いた。
【上】危険でも業務止められず
井川淳一さん(仮名)はキャリア30年のベテラン介護福祉士だ。都内にある勤務先の介護施設は、通所、ショートステイ、入所に対応。食事や排せつの補助、着替えといった直接的な身体介護を行なっている。
国の緊急事態宣言発令(4月7日)を受けて、施設は通所サービスの休止日を週3日ほど設けた。
「利用者のご家族から生活が立ち行かないとの声が寄せられました。利用者にとって施設は生活の一部ではなく、全て。中には自宅での入浴が難しい人もいます」
普段は50人近くが利用するところ、受け入れを10人程度に絞って再開した。それでも、集団感染の不安と隣り合わせだったという。
「自分たちがマスクを着用しても、利用者に着用の義務付けはありません。認知症が進み、状況を理解できない人もいれば、着用したまま、リハビリをすると息苦しくなる人もいます。同僚が30人分の布マスクを手作りで用意してくれましたが、嫌がる利用者もいましたね」
感染リスクを恐れて、出勤を拒否したり、不満を漏らしたりする職員はいなかったのだろうか。井川さんは、こう答える。
「介護はやめることができない仕事という共通認識が職場にあります。介護労働者は常に〃自分を守りたいけど、利用者の生活もある〃というジレンマや悩みを抱えながら働いているのです」
●働き方を考える契機に
職場で問題になったのは予防対策だけではない。国は緊急事態宣言の解除後も県をまたいだ移動を慎重にするよう求め続けた。井川さんの職場も近隣県から通う職員は少なくない。福祉や介護の労働者は、全産業の平均賃金より約10万円も低いため、比較的高い賃金の東京で働く傾向にある。
「東日本大震災の時も、近隣県在住の職員が通勤できませんでした。都市部の介護施設は他県から介護労働者が来なければ崩壊しかねません。労働者にとっても長時間の通勤がワーク・ライフ・バランスによいとは思えないですね。(コロナ禍は)賃金や地域福祉の構造を根本的に見直す機会ではないでしょうか」
●万全の体制に予算は必須
施設を運営する法人は、感染した場合の傷病手当や基礎疾患のある職員の特別有給休暇を設けるなど、労働条件にも対応した。法人の経営する病院がコロナ対応の影響で減収になる中、定昇を確保。夏の一時金は昨年実績が維持された。国からの慰労金も支給される見込みだ。
「国は医療介護従事者に慰労金を出すことになりましたが、一時的な小銭でごまかさないでほしい。この状況で収まっているのは、最前線で働く医療介護従事者が踏ん張ったからです」
収束の見通しがつかない中、すでに第2波や秋冬の流行が懸念される。井川さんは、労使が共闘して国や自治体に声を上げる運動も必要と考える。
「私が働いてきた30年の間に、夜勤の職員は30人に対して2人から1人の配置に減らされました。すでに医療介護は崩壊の状態。今まで以上に万全な体制が求められます。そのためには予算が必要。職員を増やすべきです」
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