地域別最低賃金の今年度の引き上げ目安を議論してきた中央最低賃金審議会(会長・藤村博之法政大学大学院教授)は7月22日、新型コロナウイルスの経済への影響を理由に「目安を示すことは困難」との結論を示した。物価上昇分の引き上げさえなく、低賃金で働く人の暮らしより、低賃金依存の経営を優先した形だ。今後、全都道府県の地方最賃審で金額が決められる。1~数円の上積みをできるかが焦点となる。
答申は、新型コロナ禍の下で雇用の維持が最優先されるべきとし「目安を示すことは困難」「現行水準維持が適当」とした。目安を示さないのはリーマンショック以来11年ぶり。
審議では、使用者側が引き上げの「凍結」を主張。労働側は経済への影響、労働者の実態、国際的にも低い日本の現状を指摘、当初は800円以下の地域をなくすこと、Aランク府県の千円到達を主張し、その後平均20円、終盤では「Dランク有額」を訴えた。
労働側の主張は入れられず、「最賃引き上げが雇用調整の契機とされることは避ける必要がある」との公益委員見解が22日に示され、10月1日の発効が可能な連休前決着となった。
小零細企業の6月段階の賃上げ率は1・2%でプラスを示していた。雇用・経済指標では悪くない数値もあったが、「感染症の影響が出る前のもの」などとして採用されなかった。
答申は今後の地方の金額決定に向け「地域間格差の縮小を求める意見も勘案」するよう求めている。労働側はこれをよりどころに上積みを期待する。
来年度の審議についても「さらなる引き上げを目指すことが社会的に求められていることを踏まえ、議論を行うことが適当」と異例の注文をつけた。
今年は中小事業者3団体が4月、最賃の「引き上げ凍結」を政府に要請。安倍首相は6月、「雇用維持を最優先」と引き上げ抑制の姿勢を示していた。
韓国は1・5%増で決着。ドイツも来年から1・6%引き上げる。英国は4月、予定通り6・2%上げた。日本は仮に今後1円上積みしたとしても0・1%程度にとどまる。
〈解説〉問われる国の最賃政策
今年度の最賃改定も政府の意向通りとなった。3%程度引き上げてきた近年とは逆に振れたということ。問われるべきは国の最賃政策である。
確かに雇用情勢は厳しさを増す。一方、労働側が主張したように、コロナ禍でも社会生活を支える労働者の多くが最賃額周辺で働いている。今も日本の最賃は先進国の中で最も低く、底上げの重しとなっている。
今回、政府は最賃引き上げの社会的合意作りを早々に放棄した。諸外国のように、引き上げの影響を受ける中小企業支援を求める声は使用者側にも強くある。批判の強い「Go Toキャンペーン」に1兆円もの予算を組むぐらいなら最賃に使えないものか。
現行の「労使交渉」的な決定方式も限界を迎えている。既に最近は労使の主張とは別に政府方針に沿って引き上げられてきた。従来方式では近年の3%引き上げはとても無理だっただろう。国の政策として最賃をいかに位置付けるかが問われている。
時々の政府方針でぶれるのではなく、例えば、平均賃金5~6割の水準を設定してそのための政策を配置することや、最低生計費を国が調査し最賃の算定根拠とするなどの方策を検討できないか。最賃法大幅改正は2007年が最後で、検証作業も行われていない。
非正規雇用の比率は今や4割に上る。正規雇用労働者でも最賃周辺で働く人の多さが指摘される。底上げに最賃は今最も有効な政策だ。当事者を先頭に国を動かす運動が求められる。
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