コロナ後を見据え、テレワーク(在宅勤務など)の急拡大、「ジョブ型」雇用の推進という新たな問題が生じている。集団的なワークルールと労使関係の構築が重要課題となる。
●長時間労働を招く
在宅勤務は育児・介護責任を負う労働者に認められる例外的な働き方とされ、2017年の導入企業はわずか4%だった。新型コロナ感染流行で、一挙に導入が拡大している。
内閣府の在宅勤務調査(6月)では、回答した6685人のうち35%が経験し、大都市圏では高めで、東京23区は56%に上る。
時事通信の調査(5月)では、収束後もテレワークを「拡大すべきだ」が70%を占めた。テレワークのメリットは「通勤の苦痛がなくなる」68%、「遠隔地でも働けるので家賃の安い場所で暮らせる」51%、「家族などを介護中の人も働ける」48%など。デメリットは「会社にいないとできない仕事がある」72%、「会社の人間関係が希薄になり、仲間意識がなくなる」39%。
連合のテレワーク調査(6月)では、通常の労働時間より長時間働いたことが「あった」が52%に上った。時間外・休日労働を行った人は38%で、そのうち65%が申告せずと答え、長時間労働とサービス残業の問題を示した。
在宅勤務については組合活動への結集力の低下も指摘されている。
●大手で導入検討広がる
新たな問題は、在宅勤務を契機とする「ジョブ型」雇用への転換である。
経団連の中西宏明会長は「在宅勤務で勤務時間を管理しても意味がない。時間をベースとした処遇、評価などを見直し、成果で判断する方向が望ましい」と表明。「時間管理をベースとする労働基準法の見直し」にも踏み込んでいる。世界有数のモーター会社、日本電産の永守重信会長も「個人の人事評価を強めたい」と語る。
注目されるのは、電機大手などで既に導入の検討が進められていることだ。日立では国内従業員約3万3千人の半分程度を在宅勤務とする。同時に人事制度をジョブ型に転換し、労働時間ではなく、仕事の成果で評価や賃金を決める制度へ労使協議を進めている。
富士通は国内約8万人の社員のうち約8割を、働く場所、時間帯ともに選べる在宅勤務を原則とする。処遇も年功ではなく仕事によるジョブ型人事(現在管理職約1万5千人に適用)を全社員に広げる方向で労使協議に入る。
製菓のカルビーも出勤、在宅を自由とし、人事評価は時間ではなく「仕事の成果」としている。ヤフーも約7千人の従業員を勤務時間・場所とも自由とした。
政府の20年骨太方針は「テレワーク加速」「ジョブ型正社員の促進」へ政財界一体で進める方針だ。
●ジョブ型で個人管理へ
ジョブ型雇用は、テレワークやデジタル化、Society5・0時代を視野に、経団連などが、日本のメンバーシップ型雇用とされる終身雇用・年功賃金を欧米のジョブ型に転換させる構想だ。今年の経労委報告でも提起し、コロナを契機に拡大させている。
経団連のジョブ型雇用は(1)新卒一括採用から中途・通年採用へ(2)処遇は職務給とし仕事・役割・業績に基づく(3)年齢・勤続ではなく評価による査定昇給・昇進・昇格――とする。
賃金決定は成果を重視し「全社員の一律的な賃金要求は適さない」と提起。集団的な賃金交渉も「各社一律でなく、自社の実情(に基づく)」へと、個人別、企業別への分散を推進する。既に20春闘でトヨタ労組の査定要求や電機大手の自社型賃金への変化もみられる。
経営側はさらにジョブ(職務)からタスク(仕事)への分解を推進。テレワークを通じて個人請負や副業への転換もみられる。非雇用型就労者の増加は必至で、労基法、最低賃金、労災補償が適用されず、労働法制解体の危機を迎える。
●産業別に決める欧州
欧州などのジョブ型雇用は、職種・職務で人事・賃金が決定され、産別労使協定と拡張適用で産業別・熟練度別の横断賃金を形成。組合は苦闘しながらも、未組織労働者に産別賃率を波及させている。
テレワークでもオランダでは16年に労働者が勤務場所、時間帯を選ぶ権利を認める法律を制定し、ドイツや英国などでも法制化が検討されている。
ところが日本では職務・職能資格給などを含め賃金などの労働条件は個別企業ごとに分断され、産業内でも分散し、社会的にも波及していない。さらに経営側は今後、人事制度の個別化を強める方針だ。
●ワークルール確立を
働き方の変化に対して、労働側の姿勢はどうか。
連合の20春闘では、テレワーク導入に向けた個別労使の協議が始まっているという。全労連は労使協議を重視し、労働時間管理の明確化や、成果主義賃金の導入反対、個人請負契約への転換反対、在宅勤務機材・経費の会社支援など9項目の留意事項を挙げる。
ジョブ型雇用を導入するなら、生計費を前提として、職種・年齢別などによる厚労省の賃金調査(129職種)がある。技能レベル・職務と賃率との関係については、欧州の職種別横断賃金と交渉方式も参考になろう。
連合は昨年10月の定期大会で中期的構想「連合ビジョン」を採択し、社会横断的賃金の形成・波及へ労働協約の拡張適用などを提起した。ポストコロナの労働政策は、ワークルールの確立と集団的労使関係の強化が求められる。(ジャーナリスト・鹿田勝一)
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