過重労働の解消を図る上で、不十分な法律の整備を訴えるだけでいいのだろうか。全労働のレポートは、厚生労働省で行われている「行政手法」にも見直しの余地があるとし、その改善を提言した。労働基準監督官アンケート(1053人が回答)では、今後拡充すべき手法として「臨検監督」「司法処分」を挙げる割合が多かった。
●新たな行政手法が拡大
監督官といえば、事業場への立ち入り調査によって法令違反を発見し、その是正を指導する臨検監督の業務をイメージしやすい。あるいは、悪質な事業主を対象とした刑事処分(送検)といった手法を思い浮かべる人も多いだろう。
しかし、近年はそれ以外にも多様な行政手法が進められるようになってきたという。例えば(1)企業名の公表制度(2)監督署への労働相談・支援班の設置(3)働き方改革推進支援助成金などの支援制度――である。
労働相談・支援班では、法令や制度の説明業務が中心で、中小企業の法違反の是正を厳しく求めることは差し控えるというもの。あくまで、事業主の「自主的な改善」を促す仕組みだ。働き方改革などに関連した助成金では、勤務間インターバル制度を導入した企業に助成金を支給することにしている。
こうした新たな手法を含めて「今後、何を拡充すべきか」を監督官に尋ねた。
●アポなし臨検に困難も
アンケート結果(表)によると、断トツに多かったのが臨検監督の66%。次いで司法処分の45%だった。企業名公表は25%あったものの、相談・支援班は12%、助成金制度は4%にとどまっている。
臨検監督が有効だということは、監督官の間でほぼ認識が共有されている。ただ、課題も少なくない。
アンケートの自由記入欄には、こんな声も。
「今日の企業社会の常識に照らして、アポイントなしで事業場に赴き、企業のトップあるいは幹部を一定時間拘束するという手法は非現実的」
「予告なしの臨検では、事業場の責任者や担当者が不在のケース(いわゆる空振り)が生じる」
「突然の訪問に驚く相手の理解を得るまでに多くの時間を費やすケースが少なくなく、非効率」
●実務が複雑化
加えて、臨検監督を行う際の実務が複雑化していることも、監督官の大きな悩みになっている。
指導に当たって交付する是正勧告書や、指導票、専用指導文書などの作成が容易ではないという。
レポートは「文書作成に必要となる情報の収集・整理・入力や各種文書の作成・交付に多大な時間を要しており、真に必要な監督指導に十分な時間を割けない」と指摘する。
森崎巌副委員長は「調査項目が多く、監督官が事業場に入っても、調査票を埋めるのに忙しい。例えば、事業主と向き合って信頼関係を築きながら、優先順位をつけて柔軟にすることが難しくなっている」と語る。文書作成を支援するツールを開発するなど、業務の効率化が必要と訴えている。
●時間のかかる司法処分
司法処分についてはどうだろうか。
監督官の多くはその効果を認めるものの、現状では「多くの事案を『事件化』できる体制とはほど遠い」という。
森崎副委員長は「1件を立件するには、短くて3カ月かかる。特に労働時間に関する事案は、検察庁に起訴してもらうだけの証拠をそろえるのは大変。大勢で捜査できる警察のようにはいかない。署長を除く監督官が1人、2人の監督署で司法処分に手を付ければ、他の業務は事実上、ストップしてしまう」と、監督官の悩みを代弁する。
監督官の人員増が不可欠だろう。併せて、狙いを定めた重点的な司法処分の検討も求められている。(終わり)
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