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    減額なしの残業代支払い命令/東京地裁/1カ月変形労働制めぐる裁判

     全日空のハイヤー業務を担当するイースタンエアポートモータースの配車係3人が、違法な変形労働時間制によって生じた未払い残業代の支払いを求めた訴訟で、東京地裁は6月24日、原告側の訴えを全面的に認める判決を言い渡した。被告の残業代減額の主張を退け、請求通りの約1453万円と付加金の支払いを会社に命じた。

     

    ●無効なら労基法が適用

     

     3人は個人加盟できるプレカリアートユニオンの組合員。1カ月変形労働制が適用され、日勤・夜勤・夜勤明けなどのローテーション勤務(2交代制)のシフトで勤務してきた。

     裁判の争点は(1)1カ月変形制が合法かどうか(2)違法だった場合の支払うべき残業代をどう計算するか――だった。合法性については、就業規則に詳細な記載がなく、従業員に周知もされていなかったことを会社も認めており、無効という点では争いがなかった。

     問題は残業代の計算方法だった。原告側は、1カ月変形労働制が無効になった以上、労働基準法の規定が適用されるから、1日8時間働いたとして残業代を計算すべきと主張。一方、会社側は、例えば変形制で所定労働時間が1日11時間だった場合、その日の労働を8時間とみなし、3時間分を差し引いて計算すべきだと強調していた。

     判決は、変形労働制が無効になった際に、無効の範囲について「1日8時間を超える所定労働時間の部分のみ」と指摘。賃金額については無効とならず、減額は認められないとの見解を示した。原告の賃金体系は月給制であり、時間給などのように賃金額が労働時間に対応している関係にないことを、理由に挙げている。

     原告の寺地祐人さん(29)は「主張が認められてよかった。他の社員にも声を上げようと言っていきたい」、渡邉麻人さん(50)は「そもそも配車係に変形制が必要なのかを話し合いたかったが、会社が拒否したため裁判になった。負担の重い現行の2交代制でなく、8時間3交代制に戻したい」と語っている。

     

     〈解説〉変形制の要件を規定

     

     原告弁護団によれば、変形労働制の訴訟として、今回の判決では二つの新しい判断が示されたという。

     一つは、変形労働制が違法となった場合の残業代計算の方法である。1日12時間の所定労働時間を8時間に戻して計算する場合、減額は認められないことを明確にした点を挙げる。

     もう一つは、変形労働制が適法となるための条件を細かく規定したことだ。労基法によれば、1日8時間を超える日や1週40時間を超える週を事前に特定しておく必要がある。判決は、その特定の内容について、労働契約に基づく労働日と労働時間数・時間帯を予測可能なものとするため、就業規則で(1)勤務の始業終業時刻(2)休憩時間(3)勤務の組み合わせの考え方(4)勤務割表(シフト表)の作成手続き(5)その周知の方法――を定めておく必要があるとした。

     原告弁護団の新村響子弁護士は「1カ月変形労働制が適用されている職場では『詳細はシフト表の通り』といった規定で済ましているところが少なくない。今回の判決は、それでは不十分としており、実務面に与える影響は小さくない」と語っている。

     

    〈写真〉勝利判決を受け、喜ぶ渡邉さん(右)と寺地さん(6月25日、都内)