国際金融大手で日本経済分析を長年担当し、最低賃金の大幅引き上げを提唱しているデービッド・アトキンソン小西美術工芸社長がこのほど、国会内の集会で発言し、今年、過去最高の最賃引き上げを行った英国の実情を報告した。「日本の経済構造では最賃を引き上げても雇用は減らない」とも強調した。
アトキンソン氏は「国内総生産(GDP)は人口と生産性とを掛けたもの。生産性に一番大きく寄与するのが労働分配率で、その改善には給与の上昇が必須だ。日本は世界で最も急激な人口減少を迎えている。GDPを維持しなければ、増大する社会保障負担を維持できなくなる。人口が減る分、給料を上げなければならない。企業が賃上げしないならば、最賃で強制的に上げるしかない」と語った。
英国では今年4月、最賃を史上最高の6・2%引き上げた。決定後に新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大が発生したが、見直さず実行した。
「インフレ率の4倍もの引き上げで、企業経営者から強烈な反発があったが、ボリス・ジョンソン首相は実行した。『コロナなのに上げた』のではなく、『コロナだから上げた』のである。最賃水準で働いている、スーパーやごみ収集、飲食店で働く人、ウーバー運転手、病院で清掃している人たちは休むこともできず、感染リスクにさらされながら国民の暮らしを支えている。彼らをバックアップするべきであり、凍結はあり得ないと訴え、支持率80%を背景に実行した」
休業補償への政府の迅速な助成も社会的な合意形成を後押ししたという。
●企業支配力強い日本経済
アトキンソン氏はさらに、日本では最賃引き上げを加速させた近年、15~64歳の生産年齢人口の減少にもかかわらず、就業者数が431万人増えているとのデータ(2011~19年)を示し、日本は最賃引き上げで雇用が犠牲になる現象は生じていないと述べた。
同氏は日本経済の特徴について、企業が強い支配力を持ち、割安で労働力を調達できる経済の典型例だと指摘。そうした経済では本来支払うべき賃金より低く抑えて支払っているので、最賃を大幅に引き上げても雇用が減ることはないという。法で一律に規制することにより、企業は収益を増やすために、逆に雇用を増やす方向に作用するとも述べた。
その上で、時間をかけて中小企業を中堅企業に育成し、生産性の高い経済にしていく政策が必要と説いた。
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