3年連続で労働組合の組織率が上昇している英国で、その勢いが今年に入り加速している。コロナ禍で雇用や職場の安全衛生に不安を感じる労働者が、大挙して組合に駆け込んでいるのだ。保守党政権による一時帰休制度の補償をめぐって政労使協議で存在感を示すなど、「労働組合は頼りになる」という労働者の意識が数字に表れている。
●感染者多い介護職場
公共サービス労働者が主体のユニゾン(134万人)には、1月から5月の間に6万5千人が新規加入した。退職者などを差し引いても、組織人員が1万6千人増えた計算で、前年同期比で2割近い増加だ。全国教員労組(45万人)には、ロックダウン(都市封鎖)開始の3月末から2万人が加入。医師などでつくる二つの組合でも、メンバーが急増している。他の大手組合も強い追い風を感じているという。ナショナルセンター英国労働組合会議(TUC)の組合入門サイトへのアクセス件数(5月)は前年比で500%増だった。
ユニゾンの場合、新規加入者の多くは介護施設で働いている。事業所は少人数で、これまで使用者との団体交渉は難しいとされてきた職種だ。組合のホットラインには連日、「仕事に行くのが怖い」という切実な相談が寄せられている。新型コロナウイルスによる死亡者が4万人に迫る英国では、少なくともその4人に1人が介護施設で感染していたのだ。
国が3月に設置した「コロナウイルス雇用維持制度」は、一時帰休者に最高で賃金の8割などを保障する内容だが、TUCの要請で対象期間が当初の3カ月から8カ月に延長された。事業再開に関しては、使用者が職場の労働者代表と事前にリスク対策を協議し公表することを認めさせた。
●便乗解雇には徹底抗戦
同時に、コロナ禍に便乗して従業員の大量解雇を目論むブリティッシュエアウェイズに対し、当該労組のユナイトは徹底抗戦の構えだ。鉄道労組(RMT)は「拙速なロックダウン解除で公共交通が満員状態になれば2次感染を招く」と、ストも辞さない構え。こうした毅然(きぜん)とした態度も、労働組合が信頼される要因だ。
政府が最近発表した労働組合の加入者数は昨年、9万1千人増え、644万人となった。組織率は23・5%と、前年から0・1%の微増だが、3年連続で上昇している。今回も女性組合員数が伸び、男性を上回る369万人となった。
一方、官公労働者の比率が依然として高いことや、50歳以上の組合員が全体の4割を占める半面、34歳以下は25%未満にとどまるなど課題も多いという。(労働ジャーナリスト 丘野進)
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