新型コロナ禍にくじけず中小春闘が健闘している。「大手追随からの転換」と人材確保を背景に、産別統一闘争で大手を上回るベアを獲得。コロナ対応と春闘を区別した交渉成果だ。ベア獲得を今年の最低賃金改定につなげたい。
●5年間の運動実る
連合はコロナ禍に配慮し4月16日にネット会見で春闘回答を発表した。平均賃上げ(4月2日)は昨年より651円マイナス(0・21%減)の5761円(1・94%)。ベアは1390円(0・46%)で昨年比マイナス210円(0・10%減)と厳しい。個別賃金も各銘柄で昨年比マイナスとなっている。
ベアは規模別で、300人以上が1389円(0・45%)だが、300人未満は1407円(0・58%)となり、獲得額、率とも大手を上回っているのが特徴だ。パートなどは時給で昨年同期より2円増の28・87円、月額で1760円増の6157円である。
妥結進捗(しんちょく)状況は、ベア獲得組合が44・6%(同52・6%)と半数を割り、「定昇のみ」が増加している。
検討課題は、大手の回答水準の低下だ。大手は、トヨタ、鉄鋼など7年ぶりのベアゼロや各産別の昨年比マイナス回答で、獲得水準の低下が目立つ。一方、中小は妥結水準を昨年比で微減にとどめ、結果として大手を上回るベアとなった。5年前からの「大手追随・準拠の転換」と人手不足を生かした運動の反映だ。同時に成果配分で大手のベア獲得の社会的責任も厳しく問われている。
●大手上回る中小金属
金属労協も全体のベア獲得組合の比率は56%で、14年以降で最も低い。しかし規模別では(同2日)大手44組合のベア平均1060円(昨年比292円減)に対し、300人未満は1331円(146円減)で、4年連続で大手以上を獲得している。
産別ごとに見ると、自動車総連の大手は1082円だが、中小は1440円で大手を上回るベアを獲得。大手は昨年比マイナス回答で分散傾向も目立つ。
電機連合は、千円に「以上」をつける異例の歯止め基準を設定。大手回答は純ベア1500円から福利厚生込み500円などに分散した。野中孝泰委員長は「歯止め基準の相場波及は大手と中堅で9割超、300人未満の中小で7割に上る」と評価している。電機連合の中の金属労協登録組合については、個別賃金と平均賃上げを含め56組合でベア平均は972円。規模別では千人以上が1122円で、300人未満が633円などとなっている。
JAMは回答水準を昨年比微減にとどめ、ベアは中小の1324円が全体平均の1267円より高い。産別は妥結基準としてベア1400円以上、平均賃上げ5500円以上などを設定。「業況の厳しい中小が後半で回答を押し上げ、歯止めに近い水準を獲得」と評価している。
基幹労連は鉄鋼総合が設備削減でベアゼロだが、中堅中小でベアを獲得した単組もある。造船大手は昨年マイナス500円のベア千円を獲得し、中小でもベア獲得組合がある。2年サイクルの春闘のあり方も問われている。
●物価上昇分を確保!
UAゼンセン(同1日)は平均賃上げ6546円(2・41%)で、昨年プラス408円。ベアは1862円(0・70%)で昨年を367円上回り、目標の実質賃金(物価上昇分0・6%)確保を果たした。
パートの賃上げは昨年比2・2円増の30・3円(2・99%)で5年連続で正規を超える賃上げ率である。産別は「全体的に社会的役割を果たす回答」と評価した。
情報労連が昨年と同じベア2千円を獲得。一方、JP労組や電力は一部を除きベアゼロだ。
JR東海がベア800円(昨年1300円)、西労組800円(昨年千円)など昨年を下回っている。私鉄の単組は昨年プラスや同水準ないしマイナス。
産別、単組とも例年以上に回答が分散し、共闘強化が問われている。
●全労連も中小が健闘
全労連など(4月3日)は平均賃上げ6574円(2・25%)で、昨年を610円上回り、第1回集計(3月12日)より511円プラスへと獲得水準を高めているのが特徴だ。
中小が大手を上回り、最高は30~99人で昨年プラス882円の6465円。千人以上は昨年マイナス530円の5093円と厳しい。非正規の時給は29・5円(1・98%増)である。
成果を導き出した要因として、要求組合数の増加やストを背景にした産別統一闘争、新型コロナ対策などを指摘している。4月中旬には全労連や愛労連が雇用・賃金保障・健康擁護などで街頭宣伝も行った。
●春闘の成果を最低賃金へ
働き方改善では、連合集計で「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金の実現」など10課題・38項目と要求は多彩で、成果を上げている組合も多い。
UAゼンセンは家族手当増などの均等待遇を含め、12課題で成果を上げている。基幹労連は来年4月からの65歳定年延長で前進回答を引き出した。全労連では、生協労連などが同一労働同一賃金で手当、休日改善などの成果を上げた。
政府によるコロナ対応の緊急事態宣言で外出自粛と「補償なき休業要請」、解雇など厳しい情勢が続いている。日本商工会議所などは最低賃金引き上げ凍結を検討するよう政府に要望した。世界に遅れた日本の賃金水準の引き上げへ、ベア獲得の成果を今後の最賃引き上げにつなげたい。(ジャーナリスト・鹿田勝一)
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