「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    回避努力せず600人を解雇/東京のタクシー会社/労組は雇用維持を要求

     タクシー会社のロイヤルリムジン(東京)は、新型コロナウイルス感染が広がる中、雇用維持の努力をせず安易に従業員を解雇しようとしている。グループ内の600人が対象。経営者は「雇用を継続して休業手当を払うより、失業給付を受ける方が従業員には得」と話しているという。当該労組をはじめ、労働組合は同社の姿勢を厳しく批判している。

     

    ●KPUは仮処分申請へ

     

     会社が解雇方針を表明した当時、グループ内に労働組合があったのは目黒自動車交通。多数派労組が加盟するKPU(関東旅客自動車交通労働組合連合会、連合東京加盟)は「団体交渉で雇用維持を求めているが、話が全くかみ合わない。今後、雇用継続に向けて仮処分申請を行う予定で、日本労働弁護団の弁護士と準備を始めた。安易な解雇がまかり通れば、タクシーに限らず他の業界に与える影響も大きいため、きっちり闘いたい」。

     少数派の目黒自動車交通労組(自交総連)も「雇用調整助成金を活用して雇用を維持すべき」と要求している。しかし、4月15日の回答では解雇の姿勢を改めていなかったという。

     経営側は「解雇」と言わず、退職合意書にサインするよう求めている。解雇予告手当を支払いたくないためだとみられている。自交総連はサインを拒否し、裁判提訴なども念頭に雇用確保を目指す構えだ。

     

    ●公共交通の使命どこに

     

     全自交労連の松永次央書記長は、ロイヤルリムジンの解雇方針について「事前の通知も予告手当もないやり方で、労働基準法違反は明らか。失業給付の方が得なんてうそっぱちだ」と批判した上でこう話す。

     「タクシーは地域の公共交通として営業することが国からも求められている。新型コロナの影響で東京のタクシーは60%近く売り上げが落ちているが、われわれは地域の足としての使命を果たさなければならない。ロイヤルリムジンのように『もうからないからやめる』という姿勢は腹立たしい限りだ」

     

    〈解説〉失業の方が得?/おかしな会社の理屈

     ロイヤルリムジンは従業員に対し「休業手当より失業給付をもらった方が得だ」と話し、解雇を正当化している。この指摘は本当なのだろうか。

     従業員を休ませる場合、会社は労基法の規定によって、最低でも賃金の60%を補償しなければならない。これが休業手当。

     一方、解雇に伴う失業給付は雇用保険から支給される。その水準は年齢や勤続によって異なり、日額で賃金の50~80%となる。

     この二つを金額だけで比較すれば、失業給付の方が得になる労働者もいるが、損になる人もいる。しかも、65歳を超える人だと、支給は一時金で30日分か50日分だけ。一概に「失業給付の方が得」とは言えない。

     そもそも、経営側の説明が60%の休業手当支給を前提にしていること自体、どうなのか。労基法の規定はあくまで「最低基準」。賃金の100%を補償することも可能で、実際そういう企業もある。雇用調整助成金はそのコストの一部をカバーする仕組みで、企業側の負担を軽減するために作られた制度だ。今回の新型コロナ対策で助成率は拡充されている。

     ロイヤルリムジンが休業手当の支給を選ばなかったのは、雇調金をもらっても会社の持ち出しが発生するためだろう。賃金1カ月分の解雇予告手当の支払いさえ拒否する会社である。コスト負担を避け、全てを雇用保険に丸投げ(失業給付)する意向だ。「失業給付の方が得」なのは従業員ではなく、むしろ経営者の方ではないか。