演劇などの文化イベントが新型コロナウイルス感染防止のため、中止を余儀なくされている。こうした中、劇団燐光群はタイの俳優らとの共同制作「安らかな眠りを、あなたに」を都内で上演した。主宰者で日本劇作家協会元会長の坂手洋二さんに実演家の置かれた状況について聞いた。
――3月20から29日までは、作品を上演しました。
坂手 公演直前の時点では、可能な限りの感染防止策を取って上演すれば大丈夫だと考えました。お客様のほかにタイからの出演者やスタッフもいる。迷った時には上演するスタンスを取っています。
――入場時はアルコール消毒や検温、会場では観客の間隔、次亜塩素酸水の噴霧がありました。
新型コロナウイルス対策では苦労をいとわず、防止策を怠らずにできる限りのこと、やれること、最善を尽くす姿勢に徹しました。
――音楽家や団体が国に休業補償を求めています。どういう補償が望ましいのでしょうか?
あくまでも個人的な意見に過ぎませんが、今の日本の補償システムについては、両輪、二つの案が必要と考えられます。
一つは、芸術家として働く全ての人に躊躇(ちゅうちょ)することなく、補償金を払うことです。審査や手続きに多くの時間をかけるのは無駄です。他国同様、迅速に対応すべきでしょう。ドイツではすでに外国人の芸術家にも給付を決定しました。全国民に給付するのなら、専門職として評価される芸術家に、より手厚く補償してもよいのではないかと思います。
もう一つは、公演中止などで、予定していた収入が得られなかったケースに対応するため、事業計画と履行状況に応じて、事業体、劇団やプロデュース団体、官民問わず文化団体などへの補償が必要です。芸術家への支払いが滞らないよう、徹底すべきでしょう。融資ではなく給付が大事です。
個人に両輪で給付すると、二重取りとか、予定されていた収入よりも給付総額の方が多くなると心配する人もいるようですが、そうしたことは考えられません。万が一、多く払われても、税金で引かれるでしょう。
――好きなことをやっているのだから、芸術家は自己責任という声もあります。
芸術家がこうした事態で苦境に陥るのは、自己責任だとは思いません。そもそも日本は文化予算が少ない。その上、文化財保護など他の事業もありますから、芸術家の活動にかける予算は韓国の10分の1程度に過ぎません。もともと韓国は日本に比べて2・5倍の文化予算を持っています。
日本の社会は、芸術家をはじめとするフリーランスに対し、評価が低過ぎます。他方、芸術家による職能組合や団体の取り組みが権利向上に軸を置いた発展を見せなかったのも事実です。今回のような危機では芸術家保護の補助金制度を獲得すべきです。このままでは、十分な休業補償を政府から引き出せないでしょう。悪い前例にならないよう、しっかりと要求し、また、今後のために芸術家の組合的な支援組織を構築すべきです。
――自粛は「集会の自由」の闘いと指摘されました。
緊急事態宣言によって、「自粛」から「強制」する形になれば、集会や表現の自由が奪われます。日本には、多数の人と違う意見を主張したり、表現する「変わった人」に対し、同調圧力をかける傾向が以前からあります。演劇や音楽をやっている人は悪いことをしているわけではありません。そのような意味でも、立場は弱い。体制による統制の流れを警戒すべきです。
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