タクシーの歩合給額を算出する際、残業代を差し引くやり方が違法かどうかが争われた裁判で最高裁は3月30日、「労働基準法37条(残業代支払い)に違反している」とし、高裁に差し戻す判決を言い渡した。労働側代理人の指宿昭一弁護士は「完全な勝訴判決であり、高く評価したい」と語っている。
タクシー大手「国際自動車」の二つの少数派労働組合がそれぞれ訴えていた。なかまユニオン加盟の全国際自動車労組と、中立系のkm国際自動車労組の訴訟で、この日出された両労組の三つの判決はほぼ同じ内容だ。
同社では、歩合給の計算に当たって、残業代と交通費を差し引くやり方を続けていた(図参照、現在は変更)。これだと、残業が増えれば歩合給が少なくなる。どれだけ残業をしても総額は変わらず、組合は「実質的には残業代ゼロ制度だ」と訴えていた。なかまユニオンの1~4次訴訟では、1次の東京地裁・高裁判決を除き、ほぼ原告側が敗訴している。
最高裁判決は、労基法37条について(1)時間外労働の抑制(2)労働時間に関する同法の規定順守(3)労働者への補償――が法の趣旨だと指摘。国際自動車の賃金規定では、割増賃金の支払いが定められているものの、判決は「元来、歩合給として支払うことが予定されている賃金の一部について、名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものだ」と述べ、実際には割増賃金が支払われたとはいえないと判断した。
指宿弁護士は「このやり方は国際自動車だけでなく、トラック業界などにもある。それらは今後、見直しが求められるだろう」という。歩合給における残業代の計算手法についても「実務的に大きな影響を与えるのではないか」と語った。
〈解説〉労基法ルールの順守を
タクシーの歩合給のような出来高払い制における残業代計算については、労働基準法施行規則(第19条)に定めがある。
それによると、出来高払い制によって計算された賃金総額を、当該期間の労働時間で割って時間単価を算出することになっている。この単価を1・25倍した額に実際の残業時間数をかけて残業代を計算するやり方だ。
最高裁が東京高裁に差し戻した国際自動車事件の場合、こうした計算方法に基づいて残業代が算出される見通しだ。
しかし、施行規則通りの計算方法が必ずしも守られてはおらず、トラックやタクシーの業界では歩合給から残業代を差し引く慣行が少なくないといわれる。
今後、最高裁判決に従って「実質残業代ゼロ」の手法が是正されていくことを期待したい。
●一方で懸念も
一方で懸念もある。雇用労働者である以上は労働基準法・施行規則のルールが適用される。それを逃れるために雇用関係ではない「個人事業主」などの形態に置き換える手法が広がらないかどうか、労働組合による監視が必要だろう。
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