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    〈働く現場から〉ウーバー労働は「商品」?/ジャーナリスト 東海林智

     「新しい働き方」と思って、料理宅配サービスのウーバーイーツで副業をしていたIT企業の正社員男性(29)。ウーバー社による配達報酬の一方的な引き下げを経験して、「僕が自由に働けるのではなく、ウーバーが僕たちを自由に使えるんだ」と気付いたという。2杯目のビールを飲み干すころ、少し赤くなった顔だったが、その目は真剣だった。

     

    ●本業だけでは生活困難

     

     個人請負で働く以上、対等とまではいかなくても、もう少し個人的な交渉のようなものがあるのかと思っていた。だが、肝心要の報酬についてさえ、一方的に言われるのみで、一切交渉できないのだと知ってあぜんとした。「『一人一人が事業主』なんて言われたけど、全然違う」。

     空いた時間をお金に換えるために割り切ってウーバーの仕事をしているのかと思っていたんだけど、と聞いてみた。すると、口をとがらせて「まあ、お金欲しいからね。でも、どう使われても良いかといったら違うでしょ。仕事を得るハードルが低いので働きやすいだけで、良い仕事だとは思わない」と言った。

     よくよく話を聞いてみると、IT関連企業の正社員の賃金では生活が厳しいという。以前に「ウーバーでの月収はやる気の違いで1~3万円」と言っていたが、実は〃本業〃の仕事の繁閑で、ウーバーの仕事に使える時間が違っているのだという。本業が忙しい時は少なく、暇な時はその逆だ。総月収は毎月23万円ぐらい。どんな状況でも副業なしには生活が苦しいのだ。「本業が忙しい時に、ちゃんと残業代が出れば良いんだけど、3分の1ぐらいしか出ない。基本給がそもそも低いから暇な時は20万円いかない」と打ち明けた。

     持ちつ持たれつではないが、本業の低賃金をウーバーが支え、ウーバーは低賃金で労働力を使う……そんな構図が見えてくる。

     

    ●けがと隣り合わせ

     

     もう1人、専業でウーバーの仕事をする男性も取材に応じてくれるが、その2人が恐れているのは、交通事故だ。小さな転倒や車との接触事故は何度も経験しているという。病院に行くほどの事故ではなかったが、危ない目に遭っている。

     専業の男性は言う。「数を稼ごうと、知らず知らずのうちに乱暴な運転になっている。それに配達が遅れたりすると客から悪い評価が付く。そうなるとアカウント(配達員登録)がどうなるかも心配で、いつも急いでいる」。なのに、事故でけがをしても、労働者ではないから、労災保険は適用されない。一人親方の大工さんと一緒で「けがと弁当は自分持ち」。

     副業の方の彼も「けがしても本業で補償はされないし、本業の雇用も危うくなる」と恐れている。

     2人とも個人事業主で働き続けることにリスクを感じているのだが、今も続けている。そこには、やむにやまれぬ事情もある。だが、それ以上に大きいのは、「労働は商品だ」と考える意識の浸透があるように感じる。切り売りされる〃労働者〃の姿に接していると、そう思わずにはいられない。(この項終わり。不定期に続く)