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    〈災害に弱くなった自治体〉(2)/「せめてもう少し余裕あれば」/先見えぬ復旧作業/自治労連倉敷市職労の現場組合員

     2018年7月の水害発災後、岡山県倉敷市真備地区では、道路は被災ごみ(がれき)であふれ、断水も続いた。市職員はライフラインの確保に加え、衣食住の緊急支援に駆け回った。残業は月200時間を超え、先が見えない災害対応に心身をすり減らした。「せめてもう少し人員に余裕があれば」――ライフラインの復旧など現場で対応に従事した、自治労連倉敷市職労の組合員は振り返る。

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     ――発災直後はどのような業務を?

     Aさん(葬祭業務) 発災直後、警察署から「棺桶を10個ほど組み立ててほしい」との依頼があり、駆けつけた。中には子ども用の小さな棺桶もあった。今思い出してもつらい。

     その後は、浸水した家屋を消毒するための消石灰の備蓄が尽き、4トンダンプで買い付けに走った。1袋20キロが50個で1パレット(荷台に乗せる単位)。最初はフォークリフトがなく全て手降ろしだった。災害が落ち着くまで葬祭の仕事が入らなかったので、何とか回ったというのが実際のところだ。超過勤務は休日を含め、発災直後、月104時間に及んだ。

     ※浸水した家にはヘドロが侵入し、不衛生な状態になる。市のヒアリング調査では「家の中の物を全て外に出し全面窓を開けて換気しないと、部屋の中で息をするのも辛いほど異臭が漂っていた」との被災者の声を紹介している。消石灰は肌に触れるとやけどの症状を引き起こす。Aさんもやけどの症状が現われた(編集部注)

     Bさん(水道業務) 真備は隣接する総社市とも水道管をつなげている。倉敷市玉島地区と総社の双方から水を流せたため、比較的早く断水を解消できた。でも戦時中の「硫黄島」ではないけれど、情報が入らず陸の孤島だった。わざわざ10キロ離れた本庁まで出向いて状況を把握しなければならなかった。四苦八苦。現場と本庁が噛み合っていなかった。

     28時間連続勤務の後、ようやく帰宅でき、やれやれと思っていたら、その3時間後に呼び出されたこともあった。36協定は無視。通常業務が大変なのに、避難所業務や弁当配布など、現場の声を無視して次々に業務がのしかかってきた。

     ※7月豪雨では約8900戸で断水が発生。自衛隊や他自治体からの支援を受け、応急の給水活動を行った。酷暑の中、発災18日後の24日には全域で飲用水の供給を完全復旧させた(編集部注)

     Cさん(清掃業務) 超過勤務は7月だけでもたぶん200時間を超えていたと思う。校舎の高さにも積み上がった災害ごみ(がれき)の山。最初は全然先が見えなかった。ごみを何度収集しても追いつかない。それでもなんとか8月のお盆過ぎには収束した。

     A 当初、半年はかかると言われていたよね。

     C 全国の自治体からパッカー車(ごみ収集車)が応援に来てくれて本当に助かった。新潟、横浜、大阪、最南端は鹿児島からの応援もあった。

     ※倉敷市では水害で、真備地区を中心に、17年度のごみ総排出量の2倍近い約35万トンの災害ゴミが発生。仮置場に収まらなかったゴミが国道の1車線を埋め、慢性的な大渋滞の原因にもなった(編集部注)

     ――民間委託や非正規化の影響はありましたか?

     C ごみ収集は、倉敷は真備を含め、3分の2ぐらいが民間委託。民間業者は契約で動くからね。初動はどうしても遅くなる。でも、少ししたら委託の皆さんも頑張ってくれた。

     非正規職員はゴミ収集車を運転できないことになっている。あくまで助手。運転手が急病になったりしたら別だけど。運転できるようにすると、正規と仕事が変わらなくなるからあえてそうしているのだろう。もう少し柔軟な対応ができないものかとは思う。

     

    ●執ようなクレームも

     

     ――大変だったことは?

     C 経験がないからね。自衛隊も災害救助ということで、最初はごみを取ってくれなかった。理由付けが必要だった。緊急性、公共性、非代替性が求められ、その調整で大変だった。

     A 僕らはこれまで支援に行く方だった。大地震があった東北地方や熊本にも行った。応援は、期間限定で指示されたことをしていればよかったが、当事者になると、そうはいかない。いつ終わるのか、先が見えないのがこたえる。

     B 次から次に現場を無視して仕事が舞い込んだ。

    いら立っている人も多く、住民からのハード・クレーム(苦情)にも遭い、4時間も直立不動で立たされたことがあった。本当はそんなことより、一軒でも多く水を配りたかったのに。

     A そう。文句言う人はおったね。

     C おとなしい人ばかりじゃない。余裕のない人もいる。威圧的に「まだ来んのか!(ごみを)取りに来る、言うたろうが!」と。うちの課は皆、現場に行きたがった。災害現場を見て「何とかしなければ」という思いが強くあった。「無理難題を言われたら冷静に対応してください」と伝えていた。

     

    ●26年ぶりの現業職採用

     

     ――どんな改善を望む?

     C 余裕がほしい。定時で電気が消える部署があれば、かたや朝まで仕事をしている部署がある。私らが土曜、日曜と出ているのに、部署によっては土日休みだとか。災害対応に加え、通常業務にも追われているからぎすぎすしてしまう。

     A 横のつながりができればと思う。余裕がないので、どうしても口調が荒くなる。なんで手伝ってくれないのか、なんで早く帰るのかということになる。

     B もっと一枚岩になるかと思ったが、想像以上に悪かった。市は10月頃からせきを切ったようにイベントを開催していた。避難している人はまだいたのに。アンバランスだなと感じた。

     リーダーが現場の声を聞こうとしない。安全衛生も省略的になる。管理職と職員の面談は現市長の下で減った。選挙のためのイベントが多く、職員の健康確保をおろそかにしているのではないかとさえ思う。

     ※20年8月22日付朝日新聞報道によると、水害が発生した18年7月、広島、岡山、愛媛の46自治体で、過労死ラインを超える残業を行った職員は少なくとも2700人以上いたとの調査結果を報じている(編集部注)

     ――人員増の要求は?

     B 水道職場は減らされている。残念だが、来年度も減る方向と聞く。特に施設系の技術職が高齢化し、技術継承がきちんとできるのか不安だ。18年水害では施設系の被害は少なかったことが不幸中の幸いだったが、今後同様の災害が起きた時に対応できるのか、心配している。

     C 清掃職場には昨年は4人、新入職員が採用された。実に26年ぶりだった。現業職の職員が倉敷市の環境行政に継続的に責任を持つには、ごみ現場に精通した技能職が必要だということがようやく当局にも理解されたのだろう。全面委託の方向に待ったがかかったのは、住民生活にとっても改善方向だと思う。

     ※清掃部門の職員数は、05~10年の「集中改革プラン」により、19年は最大時の94年と比べて半減している。地方自治体の全職員数は94年の328万人から、19年は54万人減の274万人となっている。特に現業職の不採用、民間委託が急速に進んでいる(編集部注)