偽装請負など違法派遣と知りながら働かせた場合、派遣先が労働者に直接雇用を申し出たものとみなす「労働契約申込みみなし制度」。2012年の労働者派遣法改正で設けられた労働者保護制度でもある。この法律をめぐる裁判の初めての判決が3月13日、神戸地方裁判所で言い渡された。「偽装請負とまでは言えない」という歯切れの悪い判断で、原告の訴えを退けた。
●請負と派遣による偽装
原告の5人は請負業者のライフ・イズ・アート(ライフ社)に所属し、住宅建材を製造販売する東リの伊丹工場で壁と床の境目に付ける巾木製造などに従事した。東リ社員と同じ作業着やヘルメットを支給され、クレーム処理を社員と同じファイルに記録したり、金型に関する月1回の定例会議に出席していた。東リの熟練工から直接、作業の指導も受けたという。製造に必要な億単位の機材は東リがライフ社に月2万円程度で貸していた。
ライフ社は17年3月、従業員を労働者派遣の働かせ方に変更後、整理解雇した。原告らは東リに対し、「みなし制度」に基づく直接雇用を申し込んだが、拒まれた。
判決は偽装請負の状態の有無および、偽装請負の目的が東リにあったかについて、派遣と請負の区分基準を定めた労働省告示などを参照の上、実態の精査を行った。(1)東リ社員と原告らが混在して作業する環境は解消済み(2)支給したヘルメットに請負業者を区別するテープが後に張られた(3)原材料は東リから供給されていたが、ライフ社が発注し、在庫管理も行っていた――と認定。東リからの日常的な業務連絡のメールは主任宛であり、従業員個人に対する業務指示ではないとし、東リの品質管理係長らがライフ社員に説明や指示を行ったのは、「機械の貸与に付随するもの」などと指摘した。
こうした事情を総合的に考慮し、「偽装請負等の状態にまであったということはできない」と結論付け、原告の訴えを退けた。
●大阪高裁へ控訴
派遣労働問題に詳しい龍谷大学の萬井隆令名誉教授は判決について、億単位と言われる製造ラインの機械を月2万円の安価でライフ社に貸した事実は、偽装だったことの証拠だと指摘。「ライフ社は(独立した業者として)製造を請負う物的条件を備えておらず、請負という実体はなきに等しい。機械を操作する労働者を提供しただけだ」と述べている。
原告らは大阪高裁に控訴した。
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