「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    賃上げの流れ、前年ほぼ維持/金属労協最初のヤマ場/「多様な方法」へ道

     金属大手組合の回答(3月11日)は、千円を軸に賃金改善(ベア)を引き出し、賃上げの流れを次につなげた。米中貿易摩擦など国外の不安定要素に加え、新型コロナウイルスの影響が徐々に広がる中、前年を下回らない相場形成が図られた。一方、トヨタは正社員について「ベアゼロ」。一部では、経団連が主張する、月例賃金以外の「多様な方法」による賃上げに道を開く決着ともなった。

     

    〈自動車〉千円以上で踏みとどまる

     自動車大手は賃金改善(ベア)分を明らかにしている組合で、ほぼ前年並みの千円以上で決着した。

     日産は「改定原資として7千円」の回答。定昇相当分を6千円として、賃金改善分は千円。本田技研は改善分2千円の要求に、ベア500円を含む1500円の改善原資を獲得。ダイハツ、ヤマハ発動機が1500円、三菱自工、いすゞが千円の改善を引き出し、踏みこたえた。

     マツダは「人材活躍の最大化のための基盤整備」として1500円相当の原資という回答。スバル、日野は詳細が不明な総額表示となった。

     高倉明会長は「大変難しい状況の中、価値ある回答を引き出せた。来年以降につながる着実な一歩だ」と健闘をたたえた。

     

    ●内需拡大の道を逆走

     

     近年、賃金改善分を非公開とし、昨年は一時金を異例の半期のみの回答とするなど、その去就が注目されたトヨタ。回答は、非正規社員を含む全組合員1人平均8600円だった。

     同社は11日、広報サイト「トヨタイムズ」で、「改善分はゼロ(ベアゼロ)」の回答だったことを明かし、「これからの競争の厳しさを考えれば、既に高い水準にある賃金を引き上げ続けるべきではない」との豊田章男社長の説明を掲載している。「ベアゼロ」は7年ぶり。

     ただ、「回答には非正規社員の処遇改善にあてる原資もありベアゼロではない」というのが自動車総連の説明。一時金は満額の年間242万円だった。中小の労組からは「ベアを隠しながら、ベアゼロの時だけ明らかにするとは。もう少し配慮がほしかった」と、相場形成への負の影響を心配する声が聞かれる。

     「百年に一度の自動車産業の大変革期」での判断というが、内部留保は史上最高の約20兆円。内需拡大の道を逆走する、世界有数の自動車企業の迷走は今後の春闘に陰を落とす。

     

    〈写真〉金属労協は新型コロナウイルス対策で初のテレビ会議方式での記者会見を開催した(3月11日、都内)

     

    〈電機〉「千円以上」でそろえる

     電機は、昨年の賃金改善千円を割るのではないかとの前評判だったが、最終盤の3月2日、「千円以上」の妥結歯止め基準を設定。回答は千円を基軸に、日立、シャープが1500円、村田製作所が1400円、東芝が1300円と、「上」方向にばらついた。月例賃金ではない方式による賃上げ回答も認めた。

     千円以上を確保したことについて、野中孝泰委員長は「組合員の期待と社会的要請に応える水準だと評価できる。1月以降、相場感が全く分からず、新型コロナウイルスの影響が日増しに悪化する中で引き出した回答。個別労使の英断に感謝したい」とコメントした。

     電機の統一闘争は、開発・設計職で一定水準の技能を持つ労働者について、企業横断的に水準を引き上げる。歯止め基準を1社でも割れば争議行為に入る建て前だ。これまで統一回答を守ってきた。

     「千円以上」と幅を持たせたことについて、「下振れ懸念がある中、上に行ける組合は行ってもらう。お互い認め合うことで、非常事態の下での社会的要請に応えようと考えた。4組合が千円以上となったことは意義がある」と述べた。

     

    ●年金は賃金に類似?

     

     賃金以外の方法による回答も焦点。19春闘で経営側から提案があり議論を重ねてきた。結果、賃金水準が高い組合について「毎月全員に支払われる、賃金との類似性が高い項目に限り」(野中委員長)認める方針を確認した。

     具体的には、福利厚生のカフェテリアプランと、企業確定拠出型年金の増額を賃金改善とみなす。報道によれば、パナソニックなど数社で取り入れたという。

     経団連が経労委報告で提唱した「多様な方法」による賃上げをなぞるような結果。一時金や退職金への反映はなく、社会保険料負担も増えない。今後の産別統一闘争への影響が注目される。

     

    〈JAM〉中小のベア平均1752円

     中堅中小の金属労組でつくるJAMでは、先行大手は前年比マイナスだが、3月10日までに賃金改善(ベア)分を引き出した44組合の平均は1624円。ほぼ前年同期並みの水準で健闘している。

     規模別にみると、改善分は300人未満の34組合の平均が1752円、100人未満は2千円(23組合)。いずれも前年同期水準である。安河内賢弘会長は「電機大手の回答が『昨年水準を下回らない』というメッセージになったのではないか」と着目。後続する中小労組の回答引き出しを念頭に「この流れを止めないことが求められる」と語った。

     同会長によると、昨年春ごろから景況感が落ち込み始め、10月の消費増税、新型コロナウイルス感染の拡大が追い打ちをかけた。自動車、工作機械関連が比較的厳しいという。一方、中小は人手不足が深刻で、現在の人材を維持するためにも賃上げをしなければならない事情があり、回答を押し上げる作用が働いたとみる。

     金属労協の会見で「リーマン・ショック時(08年)に多くの中小企業が価格値下げ要請に応じたが、景気回復後も価格は戻らなかった。安易な値下げに応じない運動が求められる。『この厳しい状況で賃上げできるのなら製品価格を引き下げられるだろう』と圧力をかけることがないようお願いしたい」。

     

    〈基幹労連〉「復活」へ決意

     基幹労連は、生産拠点のリストラが進む鉄鋼大手3社がゼロ回答と、厳しい結果に終わった。21年度を含む2年分の回答である。一方、造船、総合重工が単年度千円で足並みをそろえた。

     基幹労連は今年、産別全体で賃上げに取り組む年。鉄鋼の大手3社の業績が厳しく、1%を割り込む3千円を基軸に要求を設定していた。神田健一委員長は硬い表情で「状況が厳しく、要求できるかどうかが議論になった。熟慮に熟慮を重ねた結果、大手が行動しなければ、それぞれのグループ、関連、業種別(中小)を下支えすることができない、その上での取り組みだ。産業の実態を知り、職場の知恵を集めながら、復活につながる取り組みを進めたい」と述べるにとどめた。