「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    「迷走する教員の働き方改革」刊行/著者インタビュー

     昨年末の給特法改正で、公立学校教員への導入が可能になった1年単位の変形労働時間制(以下、変形労働制)を中心に、長時間労働の現状と課題を探る「迷走する教員の働き方改革」が3月4日、岩波書店から刊行される。共著者である名古屋大学大学院准教授の内田良さんと現役高校教員の斉藤ひでみさんに話をきいた。

     

    ●目標とは無縁の制度改革/名古屋大学大学院 内田良准教授

     

     ――「迷走する教員の働き方改革」をタイトルにした思いは?

     内田 教員の長時間労働を減らすことが働き方改革の目標なのに、変形労働制の導入という、目標とは無縁の大規模な制度改革が行われました。まさに迷走という形容詞がぴったりです。

     ――今回の改革では民間同様、「月45時間内、年360時間内」の時間外勤務の上限が指針に格上げされました。

     部活動や授業準備などの時間外勤務は、給特法によって労働と認められていません。民間の場合、残業は労働なので法律の保護や規制を受けます。しかし、教員はそれらを伴わないまま、上限時間を抑制するというだけで、非常にもどかしいですね。

     ――変形労働制の導入は現実的でしょうか?

     そもそも1年中、残業が発生しているので、変形労働制が(時間外勤務の抑止力として)機能するという論理は展開できず、現実的ではありません。財源上のメリットもありませんから、授業期間中の所定労働時間を延ばすことで、残業時間が減ったように見えるだけです。何も変わらないでしょう。

     変形労働制を導入するのなら、厚生労働省の通達の通り、一切の残業がなく、業務が所定労働時間内に収まっていることを前提とすべきです。

     ――長時間労働の解消に教員増は必須ですか?

     教員増という昔からのスローガンを全面に出して繰り返すのではなく、学校の中で起きている教員の働き方の実態について、個別具体的な問題を取り上げ、そのエビデンス(科学的な証拠)を示し、「見える化」することに注力しています。教員バッシングや労働組合に偏見がある中では、教員増を求めるスローガンを打ち出すよりも、個別具体的な問題を一つ一つ検討していく。そうしていけば、おのずと教員増が不可欠であるという結論にたどりつくと考えています。

     

    ●指針で矛盾が明確に/高校教員 斉藤ひでみさん

     

     ――過労死ライン並みの長時間労働に苦しむ教員が多い中、月45時間内の上限規制は現実的でしょうか?

     斎藤 時間外上限が指針になった以上、順守に努めなければなりませんから、管理職や教育委員会は悩んでいるでしょう。無関心だった教員も現状のままでは達成できない目標を設定されたことで、長時間労働と向き合わざるを得なくなり、職場も変わりつつあると思います。

     ――時間外勤務の考え方が変わりましたか?

     文部科学省は今回の改革で、いわゆる残業を「自発的行為」から「自発的勤務」に表現を変えました。勤務だけど、残業代は払わない――矛盾が一層明確になったと思います。働いているのに残業代が払われないのはおかしいという議論につながるのではないでしょうか。「残業代を払わないのに、45時間の上限設定はおかしい」「設定するなら、その分の残業代を払え」という意見も出ています。そうした意味でも、時間外上限の指針化は意義のある一歩です。

     ――時間外上限の順守は、変形労働制の導入条件でもあります。導入に道を開くことになるのでは?

     上限時間は自発的とされてきた全ての時間を含みますから、真面目に守ろうとすれば、大変です。今後1年間、実際の残業時間の記録を残すべきでしょう。私は自宅に持ち帰って授業準備をしてきましたが、この機会に働き方を変えようかと考えています。

     ――具体的には?

     学校で授業準備をしようと思います。持ち帰りなどの労働時間を含めずに、時間外上限を〃順守〃してしまえば、変形労働を導入する理由に利用されてしまうだけですから。

     ――本書では、給特法で定めた「超勤4項目」以外の残業を行う場合は、36協定を結ぶべきだと埼玉大学の高橋哲准教授が指摘しています。

     できるなら36協定を結ぶべきでしょう。文科省は給特法上、時間外勤務の命令は出せず、時間外勤務はないという見解です。この見解をどう崩せるかが鍵ですね。

     管理職は職務命令を出すことに慎重です。例えば、長時間労働の温床となっている部活動顧問の業務が正式な職務命令にならないように、自身で引き受けたような形にするなど、巧妙な手法を使っています。教員一人一人がこのような管理職の手法を自覚する必要があります。

     ――現在はどのような活動をされていますか。

     変形労働制の危険性と給特法について考えるサイトを過労死遺族の工藤祥子さんと立ち上げました。特に、変形労働制導入の自治体条例に携わる議員の方に伝えたいと思い、解説資料や署名に寄せられたコメントをダウンロードできるようにしています。

     これまでは部活動や給特法の問題を広めようと、ツイッターを中心にネットで活動してきましたが、職場の同僚と話したり、リアルな場での交流が大事だとあらためて考え、地域の人と学校教育を話し合う「教育茶話会」もはじめました。

     ――長時間労働の解消に教員増は必須でしょうか

     教員増は当然必要ですね。時間外勤務を規制できるよう、給特法を改めない限りは教職員定数も抜本的には改善されないでしょう。労働として扱ってこなかった時間外勤務を定義した上で、残業代や教員増の予算を確保することが必要です。給特法の抜本的改正は、教員を増やすための改正でもあります。これは僕からのメッセージですね。

     

    【刊行情報】岩波ブックレット「迷走する教員の働き方改革」(共著者:内田良、広田照幸、高橋哲、嶋崎量、斉藤ひでみ)、岩波書店、620円(税抜)、3月4日刊行

     

    〈写真〉ブックレットを手にする斎藤さん(左)と内田さん