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    労働時評/労働界は内部留保活用で一致/交渉ヤマ場へ/春闘擁護の共同が焦点に

     2020春闘が本格化している。厳しい情勢下での春闘交渉に向けて、各労働団体は、例年以上に賃上げによる個人消費・内需の拡大と「人への投資」、内部留保の活用を重視している。財界による春闘破壊に対し、春闘擁護の共同が焦点となっている。

     

    ●賃上げこそ経済再生の道

     

     「景気は下降局面に入った」とされる厳しい情勢下での春闘。昨年10月の消費増税などの影響で消費支出は12月に4・8%のマイナスに転落した。個人消費の前年比2・9%減少などを反映し実質GDP(国内総生産)は年率マイナス6・3%と、5四半期ぶりのマイナス成長となった。名目賃金も19年は0・3%減と6年ぶりに下落し、実質賃金は0・9%の大幅マイナスとなった。

     労働界は危機打開へ、従来以上に賃上げによる個人消費拡大を訴えている。連合は「分配構造の転換」を掲げ、昨年と同じ4%(ベア2%)と賃金絶対額の引き上げを重視。個人消費などの拡大で「経済の自律的成長」「社会の持続性」につながる賃上げを目指している。

     全労連は生計費に基づく2万5千円以上を掲げ、「大幅賃上げで景気回復と持続的な地域経済の発展と社会」の実現を掲げている。

     

    ●共闘弱まる金属春闘

     

     産別でみると、輸出産業を中心とする自動車総連など金属製造業と、内需関連のUAゼンセンなどで勢いの違いが見られる。

     自動車総連は2年連続で産別としてベア要求を定めず「単組自決」とした。要求額は従来以上にばらついた。中でもトヨタ労組は2年連続で定期昇給、ベア、諸手当の要求額を非公開とし、平均賃上げ1万100円を要求した。高収益下でも要求額は昨年比で1900円低く、異例の査定賃金提案も行った。ベア非公開も昨年のトヨタ、マツダに加え、SUBARU、日野の4組合に拡大している。

     電機連合は開発・設計職で昨年同様3千円以上のベアを掲げた。しかし産別統一闘争については「一定の条件で妥結の柔軟性を認める」とした。回答のばらつきも懸念されている。

     背景には、経営側が19春闘で「月例賃金にこだわらず、処遇条件は各社労使で柔軟に決定」などと提起。三菱電機労連も「賃金水準の高い組合は、賃金ではなく働き方改革の原資配分に裁量を」(19年7月の定期大会)と述べていた。

     1月の中央委員会で、パナソニックグループ労連は「産別統一闘争も単組の主体的判断」と単組重視を強調。一方、日立グループ連合は「日本全体の賃金相場を形成し、中小の賃金を底上げする春闘」を訴え、産別統一闘争の堅持を呼びかけた。中堅・中小労組グループの代表は新たな方針による相場波及への影響に不安を表明し、「賃金の上げ幅連帯」を要望した。

     野中孝泰委員長は妥結での「柔軟な対応」方針について「連携を密にして厳格に進める」と述べている。大手回答の産別波及力が80%以上と高く、58年間の歴史と伝統を誇る電機の産別統一闘争のあり方が問われる春闘だ。

     

    ●統一闘争へのこだわり

     

     産別統一闘争を重視し、ベアにこだわる相場形成を重視する産別もある。UAゼンセンの松浦昭彦会長は、製造大手から厳しい環境が強調される中、労働組合が賃上げ低下を容認すればデフレを止めることはできないと指摘。「よほどのことがないと前年妥結を下回ることは容認できない。共闘を最大限発揮し賃上げの相場形成を」と春闘の社会的役割を強調している。

     JAMの中井寛哉書記長は「賃金改善要求は6千円。何とかベア平均4桁を確保したい」と相場形成への意欲を表明。JR連合は、経営動向は好調だとして、ベアにこだわり、人材確保や関連・協力会社の賃金、労働条件改善へ産別と大手組合の連携強化を訴えている。

     働き方の改善では多くの組合が時短や定年延長を重視。4月から施行される同一労働同一賃金関連法への対応を強めている。地域別最賃と比べて「優位性」が薄らぐ特定最賃の存続へ、企業内最賃協定の引き上げと、適用対象の拡大も目指している。

     

    ●気炎はく神津連合会長

     

     連合、全労連、全労協など労働界が一致して、巨額な内部留保の活用を求めているのが今春闘の特徴だ。

     連合の神津里季生会長は、この20年間、先進国で日本だけが賃金が低下しながら、株主配当は増えていると指摘。「内部留保は異常なほどたまっており、もっと働く人に分配されるべきだ」と強調するとともに、「(サプライチェーンへの)付加価値の適正分配による内部留保の活用」を訴える発言を繰り返している。内部留保の活用提起は、JAMやフード連合、JEC連合など、広がりを見せている。

     全労連は内部留保の還元を経団連や大企業に求め、課税の検討も初めて提起。2月11日の「トヨタ総行動」では公正取引も要請した。全労協も内部留保活用を提起し、労働界の主張は一致している。

     

    ●春闘解体攻勢を許すな

     

     経団連は「春闘で同一業種横並びの集団的賃金交渉は実情に合わない」「交渉を各社一律でなく自社の実情」とするなど、「企業別」決定へ春闘の解体を画策している。従来以上に、回答の分散化と人事査定による賃金格差の拡大も狙っている。

     春闘ヤマ場は3月11日の大手回答から。財界の春闘破壊攻勢に対して、実質賃金の復元・向上を目指し、統一闘争の強化を通じた、春闘を守る共同が求められている。(ジャーナリスト・鹿田勝一)