英国のグラント・シャップス運輸相は1月29日、英鉄道運営企業の「ノーザン・レール」社を3月1日から再国有化すると発表した。英国は、あらゆる公共サービスを民営化してきたことで知られる。その手法の一つが「PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」だ。「世界の民営化トップランナー」だった英国で今、何が起きているのだろうか。
●上下分離方式の鉄道
英国の鉄道は、1993年の鉄道法施行後に民営化が行われていった。その際にいわゆる「上下分離方式」が取られた。「上」(列車運行会社)と「下」(線路などのインフラ管理会社)の運営を切り離す手法である。
「下」は国が保有する「ネットワーク・レール」が鉄道インフラの保有・管理をする。「上」では、鉄道事業者(TOC)が旅客輸送を担う。運輸省が指定した区域の列車運行権を「フランチャイズ」として、民営会社に授与する形。契約主体や実際の列車運行業務に関わる者、そしてインフラの所有者など、仕組みは非常に複雑だ。
日本の国鉄民営化(1987年)では地域ごとに路線と車両を保有する民営会社6社(現在のJRグループ)が設立された。日本の場合は上下分離はせず、一体だったため、英国のような複雑な状況にはなっていない。
英国では上下分離システムの下、「上=運行」を担う旅客輸送部門は25の列車運行会社に分割、民営化された。現在、列車運行会社の数は21である。
●著しいサービス低下
今回、国有化されたのは、マンチェスターやリーズなどイングランド北部の主要都市を結ぶ路線の運行を担う「ノーザン・レール社」だ。同社が営業する駅は528、1日約2500本以上の列車を走らせている。住民には重要な交通サービスだ。同社は、ドイツ鉄道(DB)の旅客運送部門であるDBアリバが経営している。
同社の経営や運行サービスについては、3年ほど前から、さまざまな問題が露呈していた。慢性的な運行遅延やダイヤの乱れ、キャンセルなどのサービス低下が頻発し、利用者の苦情が多かった。労働者のストライキも多発。インフラ投資が滞っていたことも指摘されてきた。
●「公共性回復」の動き
英国全域で公共サービスの再公営化を求める運動グループのキャット・ホブさんは「これは大きな方向転換です。私たちは何でも国有化することを求めているのではありません。利益ではなく、人々のための公共サービスを求めているのです」と語っている。
英国では鉄道だけでなく、水道の再公営化を求める声や、医療システムのさらなる民営化に反対する運動など、市民の間に「公共性の回復」とも言える動きがここ数年で顕著だ。あらゆる公共サービスの再公営化を公約に掲げた労働党のジェレミー・コービンは敗退したが、その背後にいる人々の要望は変わらない。日本にも多くの示唆を与えてくれる。(アジア太平洋資料センター・内田聖子共同代表)
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