「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    インタビュー/どう見る?70歳までの就業法案(下)/「病気でも働け」という思想/伍賀一道金沢大学名誉教授に聞く

     「70歳までの就業機会の確保」の努力義務を企業などに課す法改正は、年金など社会保障改革と一体で行われている。特に75歳への年金受給開始時期の選択幅拡大など、年金の支給繰り延べと連動しているという見方もある。「人生百年時代」という美名の陰に「病気でも働け」という思想が見え隠れする。

       ○

     伍賀 高齢者の健康状態や要望は多様だ。健康上の理由で休息したい、年をとってまで働きたくないという人もいる。そういう人に70歳まで働くように仕向ける考え方が、一括法案の中心にあるように思う。

     年金支給額を減らし、支給開始時期も繰り下げられるのだから働かざるを得ない。そういう状況に高齢者を追い込むことを「人生百年時代」という表現で包み隠している。

     2016年に厚生労働省が行った公的年金加入状況調査がある。60歳以上の高齢者3354万人の内96万人(2・9%)が無年金者だった。国民生活基礎調査(16年調査)でも、65歳以上の年金受給者の内、年金収入が年100万円未満の人が男性で2割弱、女性では6割にも上った。

     無年金、低年金の人は、健康状態が良くなくても働かざるを得ない。政府の全世代型社会保障検討会議や未来投資会議の報告はこうした問題に一切触れていない。さらに、昨年12月の同検討会議の中間報告は働き方を含めた社会保障改革を進めるとし「病気になったとき、高齢になったとき、どのような働き方ができるか」と問うている。

     病気になった時に働かなくても安心して治療できるようにするというのではなく、どのように働かせることができるのかということを言っている。驚くばかりだ。「病気になっても社会保障に頼らず、自力で生活しなさい」という本音が表れている。

     病気になった人や高齢者は雇われて毎日働くのはしんどいから、すき間時間を使って内職的な現代的個人事業主として働きなさい、企業もサポートしていくからという発想が、高齢者雇用安定法改正案の中心にあるように思えてならない。

     政府は、医療や介護に加え、労働を「全世代型社会保障」の中に位置づけるという。これまで労働と社会保障は別の領域として扱われていたのが、労働も入れ込んで、議論していこうとしている。

     年金支給開始時期の繰り延べとともに、企業が早期に従業員を手放し、企業の保障に頼らず、自力で中年から高齢期までの生活を維持する仕組みを築くという目的が背景にある。

     それは労働条件や労働環境を改善させることには程遠く、働かざるを得ない人を増やすだけだ。その内容も労働法制の保護を受けない個人事業主化であり、労働権の掘り崩しに使われる恐れがある。