政府は昨年末、閣議決定で中東海域への自衛隊派遣を決め、年明けには海上自衛隊の哨戒機(1月)と護衛艦(2月)を派遣した。国民の中には「航行する船は自衛隊に守られて心強いのでは」という声もある。一方、船員OBらでつくる「海運九条の会」は自衛隊派遣で船員の安全が脅かされると指摘し、派遣中止を求める声明を発表した。同会の世話人である平山誠一さんに話を聞いた。
――今回の自衛隊派遣をどう捉えていますか?
平山 政府は自衛隊を派遣する理由として「日本関係船舶の安全確保のための調査・研究」と言いますが、私には違和感しかありません。あまりにも外航海運の実情を知らない、荒唐無稽な話だと言わざるを得ません。
まず知ってほしいのは、海上を航海する全ての船舶が守る大原則として「旗国主義」というものがあります。船舶が掲げる旗で国籍を明示し、どの国に帰属しているのかが重要となります。
一方で、実際には日本の会社が運航していても国籍は外国籍で、しかもパナマやリベリア籍などの便宜置籍船(FOC)が大半で、日本籍船は極めて少数です。
●「日本関係船舶」とは
政府が昨年末に発表した「日本関係船舶」の定義によれば、外国籍船舶であっても日本の海運会社が所有していたり、日本人が運航者・荷主・乗組員のいずれかに該当すれば対象となります。これでは「日本関係船舶」の範囲はとめどなく広がり、収拾がつかない事態となるでしょう。
――航行する船舶への影響は?
中東海域を航行する船舶にとっては、「日本関係船舶」と認定されることによって、リスクを負う可能性があります。
海上武力紛争法とも言われる「サンレモ・マニアル」には、紛争当事国が防護する民間商船は、紛争相手国からは「敵性船舶」として直接攻撃のターゲットになると規定されています。
もし仮に、イランと米国との間で武力紛争が起きた場合、米軍と情報を共有する自衛隊は一体とみなされる恐れがあります。その自衛隊が中東海域で民間商船を護衛した場合、直接攻撃を受ける危険性があります。中立国であるパナマ国籍の船舶であっても「日本関係船舶」と認定されることで、一気に危険度が増します。当該船舶にとっては「いい迷惑」な話どころではありません。
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