テレビ朝日系列の二つの労働問題が注目を集めている。一つはテレビ朝日「報道ステーション」の番組制作に携わっていた派遣労働者の契約終了問題。もう一つが朝日放送(大阪市)で、ラジオニュース制作の外部スタッフが契約打ち切りについて団体交渉を求めている争議だ。いずれも、長年従事したベテランの労働者を一片の通告で使い捨てる事案である。
●権力監視の萎縮を招く
「報道ステーション」の制作に長年携わってきた派遣労働者10数人が今年4月での契約終了を通告されたことが昨年末、報じられた。民放労連と日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が声明を発表。働く者の権利を踏みにじり、ジャーナリズムの萎縮につながりかねないとして契約終了の「撤回」を求めた。
契約終了の理由は「番組のリニューアル」。番組は存続するのに、10数人もの派遣労働者の契約を一度に打ち切ることは極めて異例だという。民放労連の岩崎貞明書記次長は「どのセクションも人手不足が深刻で、10数人もの経験豊富なスタッフをそろえるのは難しい。どこか別の部署から同じ力量の人を引きはがして補充しなければならないが、それは無理だろう。パワー不足になることは避けられない」と話す。
派遣労働者らは無期雇用で、失業に直結するわけではない。だが、多数のベテランが抜けた穴を埋めなければ、報道番組に求められる権力監視機能が弱まることも予想される。
テレビ朝日の社内労組は自社の経営側に対し、誠実な説明とともに、他の番組など新たな派遣先の確保と、異動に伴う労働条件の不利益変更がないよう求め、了承を得たという。今のところ、契約終了の撤回までは求めていない。
1月下旬に行われた民放労連の臨時大会でも議論になり、準キー局の代議員は「社内労組のバックアップが大変力になる」「社外スタッフなしに放送は成り立たない」と述べ、産別全体での支援を呼びかけた。
日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)の南彰議長(朝日新聞労組出身)もこの問題に触れた。「原発問題や沖縄問題、直近では『桜を見る会』を追及していた番組制作の中核メンバーが、曖昧な理由で大量に切られることは許し難い。雇用不安が報道の現場を萎縮させる、そうした動きの一環として、MICも注視し全力で取り組んでいく」と激励した。
●「言論で説明を」
大阪の朝日放送ではラジオニュース用の原稿リライト作業に従事していた5人の派遣労働者が、契約打ち切りについて団体交渉を求めている。同社の対応はかたくなで、解決に背を向け続けている。
5人は新聞社や通信社から送られてきた記事をラジオニュース用に書き直す作業を行っていた。1日の半分を1人で作業し、ニュースの優先順位を付け、アナウンサーに下読みをしてもらい、原稿を完成させる。記事の作成だけでなく、ニュースの価値を見極める能力が求められる仕事だ。
当初、派遣会社を通して働いていたが、同社の指示で5人は会社を設立。その会社を介す形で就労していた。2018年、朝日放送の分社化を理由に契約を打ち切られた。
朝日放送ラジオ・スタッフユニオンの吉岡雅史委員長によると、組合結成後、団体交渉を求めたが、同社は全て拒否。朝日放送労組の仲介で、同ユニオンが解決を求める要請書を手渡そうとしたが、同社の経営側は直接受け取ることさえも拒んだという。
吉岡委員長は「かりそめにも言論機関が言論で説明しない。情けない限りだ」と憤る。大阪府労委で近く命令が示される。
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