前回の本稿で、個人請負で料理宅配サービスのウーバーイーツで働く若者(25)が、同じ仕事をする者を仲間ではなく、「競合相手」と語る様子を報告した。仲間ではないのだから、団結と連帯の労働組合は、自分とは関係のない存在なのだ。同業者は仲間ではなく、競合相手。だから、見る目も厳しい。
●自転車シェアリング
「東海林さん、自転車の違いに気づいてます?」
マクドナルドの100円コーヒーで暖をとりながら、休憩中の彼は、試すように聞いてきた。「みんなスポーツタイプの細いやつにのって『シャー』って感じだけど」とのんきに答えると、口の端に笑いを浮かべて、「節穴とは言わないけど、もっと良く見てくださいよ」と言われた。
それから20分ほど、彼がバーガーのセットのポテトを食べ終わるまで、ずっと明治通りをながめていると、あることに気づいた。例の特徴的な〃リュック〃を背負っているのは、スポーツタイプの自転車ばかりと思っていたが、違った。子どもが乗るような小さな自転車で走っている人がいる。その自転車はどれも同じ赤い色だ。
「ウーバーイーツは自転車を貸し出してもうけているの?」と聞くと、「何にも知らないんすね。自転車シェアリングですよ」とちょっと得意げに説明した。東京都などが行っている事業で、一定の区域内に複数配置されたサイクルポート(無人の駐輪施設)を設置している。
現在、23区中10区内で「借りる」「返却」を自由に行え、ポートは約670カ所に上るという。それが、赤い小さい自転車だ。電動アシスト付き。坂道もへっちゃら、疲れ知らずに長距離移動……とうたう。利用は24時間可能、料金は利用の仕方で違うが、1時間200円ほど。しかも、借りる作業がスマホで済む。「まさに、ウーバーで働く人のためにあるようなシステム」。彼の口調は、ライバルの経営分析をするかのようである。
●専業派と副業派
行政がウーバー配達人の利用を想定して始めたわけではないだろうが、確かにウーバー向きだ。このシステムを使えば、スマホ1台あれば、事足りる。自転車購入という〃初期投資〃も管理も必要ない。例えば、営業担当のサラリーマンが、アポとアポの間に約2時間あったら、スマホで宅配の仕事を請け負い、ポートにある自転車を借り、品物を届け、近くのポートに返し、営業へ向かう……などということも可能なのだ。
彼の言によれば、スポーツタイプの自転車に乗るのが「専業派」で、シェアリングの自転車を使っているのが「副業派」となるらしい。当初は、専業派が多数を占めたが、最近は副業派が急激に増えているという。「(多く配達すると上乗せされる)プレミアムを取りやすいなど専業のメリットはあると思う。どうすれば効率が良いかなども知っている」と副業派との違いを強調する。だが、実は、心が揺れている。そのきっかけは昨年末の報酬引き下げだ。
●報酬減額は予想以上
彼は引き下げの発表に「会社の取り分も減るのだからやむを得ない」との立場だった。しかし、実際、新しい報酬で仕事をすると、収入の目減りは予想以上だった。「ああ、こんなふうに減るんだと思ったら、急にこれからの生活が不安になった。このままで良いのかと考えている」という。専業から副業に乗り換えようかと迷っているのだ。彼にどんな心の動きがあったのか。それを知るため、副業派の話も聞いてみた。(この項続く)
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