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    昨年同様「ベアも選択肢」/経労委報告/日本型雇用見直しに触れる

     経団連は1月21日、経営側の春闘対応指針「2020年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」を発表した。今年も賃上げの流れを継続し、昨年同様、ベースアップ(べア)を選択肢の一つと容認している。一方、技術革新への対応を理由に、一層の労働規制緩和や、日本型雇用の見直しも求めている。

     報告は総額人件費管理の下、支払い能力を踏まえるとした上で、「賃金引き上げへの社会的な期待も考慮しつつ、賃金引き上げのモメンタム(勢い)の維持に向けて、各社の実情に応じて前向きに検討していくことが基本」と、賃上げ継続の姿勢を示した。賃金、一時金、手当を柱とし、多種多様な組み合わせを示唆している。

     基本給については昨年同様「ベアも選択肢」とし、全体の一律引き上げだけでなく、若年・中堅層への重点配分や、査定結果による配分を促している。

     一方、昨年までは記載されていた、パートや有期雇用労働者の賃上げや正社員転換の検討を促した項目はなくなった。巨額のため込み利益として批判される内部留保についての「反論」も消えている。

     さらに報告は、技術革新によるイノベーションを生み出す働き手にとって、労働時間ではなく成果を重視する制度が必要だと強調。過重労働を招きがちな企画型裁量労働制の対象業務拡大や、労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制の活用を訴えた。

     新卒一括採用や長期・終身雇用を特徴とする「日本型雇用システム」の見直しも提起した。現行の仕組みでは、優秀で若い「高度人材」「海外人材」の獲得が困難であるなどとし、高度な専門業務に専念する、職務給中心の「ジョブ型」の雇用区分の併用・拡大を呼びかけている。

     

    〈解説〉賃上げは不可避

     

     景気が減速し、世界経済の先行き不安要素が顕在化する中、経労委報告は今年もベアを容認した。日本経済の回復には賃上げが不可避だという認識を否定できなくなっていることは注目される。問題は本気の度合いである。

     ベア春闘は今年で7年目。経労委報告は経済動向の厳しさを指摘しながらも、賃上げの継続を重視した。ただ、総額人件費抑制策の下、非正規労働を急増させたことや、ベアを否定して春闘の機能を弱め、20年の間に先進国で唯一賃金水準を低下させたことへの反省は見られない。

     反省の欠如は随所に現れている。賃金だけでなく、手当や一時金による「多種多様な方法」を推奨し、中小企業の賃上げには一貫して冷淡な姿勢を見せている。多発する過労死の問題も解決していないのに一層の労働時間規制緩和を主張。非正規労働者や中小企業労働者の処遇改善こそ必要なのに、安定雇用、年功賃金を特徴とする「日本型雇用」の見直しを打ち出している。

     今行うべきは、人件費や下請け単価を極限にまで下げ、巨額の利益をため込み続けている「大企業・ファースト」、株主・役員優先の異常な実態を改めること。失われた20年の埋め合わせのためには、これまでの延長線上ではない規模の賃上げと、裾野の拡大が急務だ。

     賃上げの継続を言うのなら、公正取引の実現、付加価値の適正分配、企業内最低賃金の引き上げ、正社員転換など、経済界としてできることをもっと強く打ち出してもよさそうだが、そうした方向での本気さは感じられない。