日本でも当たり前になったペットボトル入りの水。米国では日本よりも圧倒的にその消費量は多い。ネスレ社のペットボトル水(ミネラル・ウォーター)は2014年、コカ・コーラの売り上げを上回り、米国のボトル飲料市場において、初めてミネラル・ウォーターが首位になった。
こうした市場を開拓してきたのは、他でもないグローバル企業である。特にペットボトル水市場は、大手の寡占状態が著しく、全世界で販売されている多くの飲料ブランドは、わずか 10社の企業に支配されている。各社は何千人も雇用し、毎年何百億ドルもの売り上げを上げているが、特にネスレ社とダノン社が市場に占める割合は大きい。
メーカーの多くは、天然の資源(地下水や湧き水)をくみ上げ、ろ過や加熱殺菌をしてボトルに詰めて販売している。国や自治体によっては、地下水や湧き水のくみ上げ量の規制や利用のルールを定めていないケースもあり、水資源の利用をめぐり企業と住民、自治体の紛争が多発している。
●ネスレが裁判で敗訴
例えばネスレは17年9月、カナダの小さな自治体が購入を予定していたオンタリオ州の井戸を買収し、そこでくみ上げた水からペットボトル飲料を販売しようとしたが、住民たちの不買運動にさらされた。
同社は、米国ミシガン州で操業中のペットボトル水工場において、水のくみ上げ量を増やそうとしたところ、住民が猛反発し、裁判を起こした。住民側は、長年にわたるネスレ社の過剰な地下水くみ上げで水源や沼沢地が枯れてしまったと主張してきた。「水の保全を求めるミシガン市民の会」代表のペギー・ケイス氏は「そもそも、みんなの共有資源である水を私物化して売りつけるビジネスはおかしい」と語る。
一審ではネスレ側の主張を認めたものの、州高裁は19年12月、ネスレ社の主張を退ける判決を出し、ネスレ社による地下水のくみ上げ増量は実現できなくなった。同社は「ペットボトル水の提供は、住民への〃公共サービスの提供〃である」と主張したが、住民にとってみれば、ペットボトル水の販売が公共サービスだという主張は受け入れられるはずはない。住民たちは逆転勝利に沸き立った。
●水資源をどう守るか
地下水の商品化は、米国だけの問題ではない。今まさに干ばつと山火事の被害に見舞われるオーストラリアでは、クイーンズランド州の農村部で中国企業が地下水をくみ上げ、深刻な水不足に陥っているという。インドでは2000年代、コカ・コーラ社による大量の地下水くみ上げで資源が枯渇し、住民たちが工場立ち退きを求める反対運動を続けてきた。
多くのケースでは、企業の操業開始時に自治体や議会でくみ上げ量の規制が定められている。しかし、数年たった時に地域の水資源にどんな影響を与えるかを予測することは困難である。一度許可されれば環境に影響があったとしても規制強化やくみ上げ禁止は難しいのが現実だ。
日本では、工業用水としての地下水利用工業用水法などで部分的な規制をしてはいる。条例で規制する自治体もあるが、地下水の権利や使用に関する包括的な国内法は存在しない。各地の水資源をどのように守り、企業を規制していくか、世界の事例は日本へも示唆を与えてくれる。(アジア太平洋資料センター 内田聖子共同代表)
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